昨年『つまをめとらば』で直木賞を受賞した青山文平さん。藤沢周平を思わせる端正な文体で武家社会に生きる男女の姿を描き出した受賞作の世界が、新著『遠縁の女』(文藝春秋)でさらに深化した。

 表題作は、戦乱から遠い寛政の世にあえて武者修行に送りだされた若い武家が主人公。5年ぶりに国に戻った男は、ある驚愕の事実に直面するとともに、幼馴染の女が仕掛ける謎に翻弄される。結末で男が下す意外な決断は、読者に未知の快感を与えるはずだ。

「私の小説は先が読めないとよく言われますが、自分でもどうなるかわからないのですから当然です。時代小説というジャンルに縛られず、人間の生身の姿を描きたい。直木賞をいただいて自由を得たことで、その姿勢がより鮮明になり、今作に結びついたのだと思います」

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 男が心の蓋を取り去り、自分でも想像しなかった地平に辿り着く様は、まるで心理ミステリーを読むかの如く。前作『半席』(新潮社)は、時代小説ながら昨年末の「このミス」4位にランクイン、日本推理作家協会賞にノミネートされたことでも話題を呼んだ。「時代小説は読まないが、青山作品は読む」という読者が1作ごとに増えているそう。

 作品世界を伝える「攻め」のカバーも必見だ。

遠縁の女

青山 文平(著)

文藝春秋
2017年4月14日 発売

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