文春オンライン

なぜトランプ大統領はイラン攻撃の手を緩めたのか

中西輝政・京都大学名誉教授が地政学で読み解く

source : 週刊文春デジタル

genre : ニュース, 国際, 政治

note

 その典型が、金正恩に対して身動きが取れない北朝鮮情勢だ。

「アメリカが北朝鮮に対して、直接武力行使を考えるなら、少なくとも数十万の死者を出す全面戦争となる覚悟が必要です。しかしアメリカは北朝鮮で足を取られたら、たとえば中東でロシアが動く。中国も南シナ海あるいは台湾に出てくるかもしれない。もし万が一、北朝鮮への武力行使が泥沼化したら、トランプ政権は存続しえないだろう。これが北朝鮮問題に限らず、今のアメリカ外交が抱える一大ジレンマなのです」

ウクライナ疑惑で世界が“大迷惑”する?

 今回のイランへの関与をめぐっては、米上院で近く始まるとされるウクライナ疑惑の弾劾裁判から国民の関心をそらす狙いがあると、世界のメディアから指摘されている。

ADVERTISEMENT

 中西氏が、インタビューでまさに危惧していたのも、このウクライナ疑惑をめぐる「リスク」だった。

イランのソレイマニ司令官を殺害について会見するトランプ大統領 ©AFLO

「いまトランプ大統領に対して、ウクライナ疑惑を巡る弾劾が進んでいます。共和党は一致して早急に収束させる戦術に出るでしょうが、民主党は大統領選挙に利用しようと長引かせる。その結果、2020年前半はアメリカ政治がまともに意思決定を出来なくなる恐れがあります。そうすれば、世界は様々な分野で“大迷惑”を被ることになります。

 周知の通り、トランプ大統領は自身の選挙のためには何でもやる、というスタイルです。つまり今後、この調子で国内政治を最優先にしていけば、最悪の場合、アメリカ政治は空転し世界の経済と政治がすべてアメリカの国内政局の混乱によって影響を受けることになりかねないということです」

「再選ファースト」でワシントンが空転

 さらに中西氏は、アメリカの指導者を4つのタイプに分類し、今後は「ワシントンが空転する」と予測する。

 4つのタイプとは、トランプ大統領のような草の根のアメリカの理念に立って国内に回帰し、世界からあえて孤立してもよいという「1・アメリカ第一主義者」のほか、国際社会と協力して戦争は回避し自国の経済的繁栄を第一に考える「2・リベラル左派」、世界各地に介入していこうとする「3・ネオコン」、オバマ前大統領らリベラルな姿勢から理想を掲げて国際社会に出て行こうとする「4・国際協調的理想主義者」だ。