12月24日、1年3カ月ぶりとなる日韓首脳会談が行われる。元徴用工の問題の解決の糸口が見付けられるかが焦点とされるが、会談に臨む韓国の文在寅大統領を悩ませているのが、韓国経済の悪化だ。

文在寅大統領 ©AFLO

「韓国経済、50年で最悪の状況」と英フィナンシャル・タイムズ(11月29日付)に論評された韓国経済に、今何が起こっているのか。韓国経済を国民生活の視点から切り取った『韓国 行き過ぎた資本主義』(講談社現代新書)の著者、フリージャーナリストの金敬哲氏に聞いた。

無限競争社会の悲鳴

 いま、韓国では「ヘル朝鮮」という言葉が流行しています。

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「地獄(HELL)のような韓国社会」という意味で、わざわざ「韓国」ではなく「朝鮮」としているのは、14世紀から続いた朝鮮王朝時代のような「前近代的な国」という自虐の意味が込められています。

 1997年のIMF危機以降、韓国では新自由主義的な政策が続けられ、国民の間に経済格差が広がり社会問題になっています。「この状況を変えて欲しい」と、国民から希望を託された文在寅政権でしたが、経済政策の失敗が続き、国民の期待は裏切られた格好です。

金敬哲(キム・キョンチョル)氏 ©︎文藝春秋

 経済が悪化した結果、いまの韓国は、社会のどこにいても激しい競争が求められる上に、生まれた瞬間から“階級”が決まってしまっているような閉塞感に包まれています。これが「前近代的」というわけです。

学生の「8大スペック」とは

 若者の就職率の低下は深刻です。韓国の大卒(文系)の就職率は、56%。そのため就職活動は熾烈です。インターンシップでさえ倍率は異様なほど高騰しています。大手財閥系企業なら数百倍にもなります。

 激しい競争の中で、いかに自分が優秀かを示さなければいけない。韓国の学生たちは、就職に必要なスキルや資格のことを「スペック」と呼びます。

 韓国の大学生に就職に必要な「8大スペック」とよばれるものがあります。その内訳は、「出身大学」「成績」「海外語学研修」「TOEICの成績」「大手企業が開催する公募展」「資格」「インターン」「ボランティア活動」。

若者で賑わうソウルの繁華街 ©︎iStock.com

 学生時代にこれだけ幅広いスキルを身につけるとなれば、時間が必要です。いまの大学生たちに話を聞くと、最近は「時間がもったいない」という理由で、友達づきあいも避ける学生もいる。友人や恋人と食事に1時間費やすより、10分でコンビニのご飯を食べて、残りの時間はスペックを磨くことに使うのです。

 当然ながら、それだけ教育にお金がかかりますから、家の経済力も重要です。いま、韓国では「スプーン階級論」という言葉が使われています。「スプーン」とは生まれた家の経済力のこと。「金のスプーン」を持って生まれたら一生裕福ですが、「土のスプーン」では生涯貧乏。経済格差が広がり、生まれた瞬間から「自分がどこまでスペックを積めるか」が決まっているように感じてしまう社会なのです。