ここまで追い込まれた韓国の青年たちは、自分たちの世代を自嘲的に、「N放(ポ)世代」と呼びます。「放」とは、韓国語で「諦める」という言葉の頭文字です。

 2011年に恋愛、結婚、出産を諦める「三放世代」という言葉が韓国で流行ったのですが、その3つ以外にも、就職、マイホーム、人間関係、将来の夢、さらには自分の人生そのものまで……不定数の「N=すべて」を諦めた世代という意味です。

 こんな環境では、2018年の出生率が世界初の0人台を記録したのも不思議ではありません。2019年7~9月では、ソウル市の出生率が0.69となりました。少子高齢化が信じられないスピードで進んでいるのです。

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チキン屋たちの“チキンレース”

 高齢者に目を転じても、格差社会が広がっています。高齢者の貧困は大問題になっています。

 老人貧困率はOECDで最も高い46%。韓国で国民年金制度が本格的に導入されたのは、1988年。そのため、国民年金を受け取っている老人は、全体の42%にすぎません。老人の2人に1人は、政府が所得の低い老人に配る最大30万ウォン(約3万円)の基礎年金を含めても、月の生活費が100万ウォン(約10万円)に届きません。

 その結果、韓国は、高齢者が世界で最も高齢まで働かざるを得ない国になりました。OECDの資料では、労働市場から完全に離れる引退年齢が、2017年時点で男性が72.9歳、女性が73.1歳です。

観光客でにぎわう弘大駅前 ©︎文藝春秋

 韓国も日本同様、60歳定年が一般的です。「定年からさらに10年以上働くのか」と思うかもしれませんが、実際はもっと長い。というのも、韓国企業は社内も実力主義で競争が激しく、50代前半には退職させられるケースが多いのです。サムスン電子など財閥大手は30代後半でクビも珍しくありません。

 韓国人男性の人生を指して、「起-承-転-チキン」という言葉があります。学歴が高卒であれ名門大学卒であれ、大手企業に入っても中小企業でも、最後には「チキン屋」になるという意味の言葉です。