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 チキンは、韓国のソウルフードというべき国民食です。今や、チキン店は、韓国全土に8万7000店あまりが営業中で、この数は全世界のマクドナルド約3万7000店の約2.4倍にのぼります。

 チキン屋は、退職をした人にとって始めやすい商売です。フランチャイズなら材料や調理マニュアルもある、インテリア業者まで紹介してくれて、5000万ウォン(約500万円)から開業ができるといいます。韓国の映画やドラマを見ていると、よくチキンを食べているシーンを見ると思います。登場人物の1人は必ずチキン屋をやっているといわれるほど(笑)。そのくらいポピュラーな商売です。

ソウルの観光地ミョンドン ©︎文藝春秋

 一方で、1年にオープンするチキン屋と、廃業するチキン屋が同じぐらい。国民食といっても限界はあるので、廃業も多い。厳しい出世競争から降りても、降りた先で激しい競争が続くのです。

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デモで癒やされる老人たち

 老人たちを取り巻く苦難は経済的な問題だけではありません。社会福祉の仕組みが整わない状態で高齢化が進んだため、いま現役世代の経済的な負担が一気に増大しています。

 この不況で若い世代はいくら苦労して働いても、自分たちが年寄りになったら年金として戻ってこない。なぜ今の老人たちをそんな自分たちが背負わなければいけないのか、という不満が噴出しているのです。

金さんの著書『韓国 行き過ぎた資本主義』 ©︎文藝春秋

 韓国といえば儒教の教えから「敬老社会」とされてきましたが、いまは若者が老人を「年金虫(=年金をむしばむ害虫)」と老害扱いして、虐待と暴力も増加傾向です。高齢者の自殺は社会問題になって、「嫌老社会」化が進んでいます。

 いま、老人たちの逃げ場として、公園のベンチで孤独に過ごす人も多いです。私自身、取材中に老人はどこへ行ってもすごく優しく、何でも話してくれました。それだけ寂しい、話し相手がいないという面もあると思います。

ソウル市内の公園に集まった高齢者たち ©︎AFLO

 印象的だったのが、インタビューした老人が「自分は本当につまらない人間だけど、毎週土曜日に光化門でデモをしている」と語ったことです。デモに参加すると愛国者になったような気分になるというんですね。居場所もなく自己肯定感も低い老人にとって、保守派であれ、革新派であれ、数少ない満足感を得ることができる場所がデモになっているのです。