今年のロシアの戦勝記念日はいつになく寂しいものだった。

 毎年5月9日は大祖国戦争(独ソ戦)の勝利を国を挙げて祝う祝祭の日。長い冬がようやく終わり、街が春の陽気に包まれるという時期もあいまって、一年で最も盛り上がりを見せる国民行事だ。モスクワの赤の広場では兵士の行進や最新兵器のお披露目などの軍事パレードが大々的に行なわれる。一般市民たちも戦地に赴いた家族や親族の写真をプラカードに掲げ、たくさんの勲章を胸に飾った退役軍人らとともに目抜き通りをねり歩く。夜には各地で花火が打ち上げられ華やかな一日が締めくくられる。日本の終戦記念日のような厳かで重々しい雰囲気とはまったく趣が異なっている。あくまで勝利した側なのだ。

 しかし、今年は少し様子が違った。

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寒空の下、赤の広場で行なわれた戦勝記念パレード ©getty

プーチンのSPが大きな黒い傘を持ち歩く

 まず天気が悪かった。ロシアでは戦勝記念日は必ず晴れるものと相場が決まっている。前日に特殊航空部隊がドライアイスや液体窒素などの薬剤を大気に噴霧し雨雲を消す天候操作をするからだが、今年はその甲斐もなく小雨まじりの曇天となった。おまけに当日の気温は2~3℃と、ロシアとはいえ5月ではありえない寒さ。10時に始まった記念式典では、参列者はみなコートに身を包んでいた。小雨がぱらつき、テレビ中継のレンズには時折水滴がついている。プーチン大統領を警護するSPが大きな黒い傘を持ち歩いていたのも印象的だった。おそらくはライフル銃の仕込み杖のようなものではなく普通の雨傘で、本格的に降り出せばすぐに手渡す手はずだったのだろう。

演説するプーチン大統領。国際社会の結束を訴えた ©getty

 プーチン大統領の演説に続いて軍の行進が始まったが、赤の広場上空は依然として低い雲に覆われたままで、当局は視界不良と判断、航空部隊の参加は急遽取り止めとなった。政府が後日発表したところでは、ぎりぎりまで天候の操作はしたものの前線があまりにも強力で、パレード開始1時間前に中止が決定されたとのこと。1万人を超える兵士、100以上の兵器が赤の広場を揚々と行進していったが、航空部隊の参加がなかった分、パレードは1時間ほどであっけなく終わり、物足りなさの残るものとなった。

海外要人はモルドバのドドン大統領だけ

 外国から訪れた要人もモルドバのイーゴル・ドドン大統領ただひとりと地味なものだった。モルドバはルーマニアとウクライナに挟まれた欧州最貧とも言われる旧ソ連の国。昨年12月に親ロシア派の大統領が誕生したが、ウクライナのようにEUとロシアの間で揺れ動いている。ロシアとの関係を深め政情安定化をはかるためにも呼ばれたらすぐにでも飛んでいかざるを得なかったのだろう。一方、ロシアとしてはウクライナのようにNATOに取り込まれたりしないようにしっかり引き止めておく必要がある。ちなみに、外国からの来賓の少なさについてドミトリー・ペスコフ大統領報道官は後日、「今年は72周年でキリのいい年ではなかったし、もともと大人数は想定していなかった」と弁明をしている。

ロシア国営テレビの放送より シロクマが描かれた軍用車両