『プーチンの世界 「皇帝」になった工作員』 (フィオナ・ヒル他 著/濱野大道他 訳)

「これからはこの本がプーチンのロシアについての教科書になる」と元外務省主任分析官の佐藤優さんが推薦しており、関心を持って読ませていただいた。

 本書で私が最も興味深かったのは、ピョートル・ストルイピンの名前がよく出てくることである。

 ニコライ二世時代の一九〇六~一九一一年、帝政ロシアの首相であったストルイピンは「ロシアの力の源は極東にあり、極東に人を住まわせることがロシアの力である」と言った演説をよくしている。

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「プーチン大統領は二〇一一年に『我々に必要なのは偉大なる変革ではない。偉大なるロシアだ』と述べている。これは一九〇七年に議員たちを批判したストルイピンの有名な演説『君たち諸君に必要なのは偉大なる変革だが、我々に必要なのは偉大なるロシアだ』を言い換えたものだった」(P96)

 ストルイピンに対する評価はさまざまだと考えるが、「ロシアの力は極東にあり」は、ストルイピンが亡くなって百年以上経ってまさに現実となっている。

 世界一のエネルギー資源大国として、極東ロシアの大きな役割がこれから待っている。

 強いロシアを目指したストルイピンとプーチン大統領の姿はオーバーラップする点が私には多い。ストルイピン生誕百五十年にあたり、プーチン大統領はポケットマネーを出して、ストルイピンの銅像を建立している。

 著者は「プロの工作員」として今日のプーチン大統領を見ているが、行間からもう一人のプーチン大統領が私には見えてきた。それは冷徹でタフではあるが、実は人情味豊かで人間関係を大事にする人だという側面だ。

 一九九九年九月、ニュージーランドAPECで初めて会った際、当時首相だったプーチン氏はキルギスで起きた日本人技師四人の誘拐事件に大きな協力をして下さり、無事解放できた。

 二〇〇〇年春、クレムリンで私は小渕恵三総理の特使として、大統領選初当選直後のプーチン氏と会談し、首脳会談の日程を取り付けた。この時、プーチン氏から頼まれた件を実行すると、来日の際、直接にお礼を言われた。

 翌年三月、イルクーツクでの森喜朗・プーチン首脳会談の時にも、プーチン大統領は大変温か味のある対応をしてくれた。

 本書を読みながらプーチン大統領の人となりをよくよく知り、私は北方領土問題解決、日露平和条約の締結は安倍晋三首相とプーチン大統領とで実現できると確信したものである。

Fiona Hill/1965年生まれ。米国家情報会議のロシア・ユーラシア担当の元情報官、現在アメリカの有力シンクタンク・ブルッキングス研究所の米国・欧州センターのディレクターを務めている。これまで、ロシア・中央アジア関連の研究書を複数出版。

すずきむねお/1948年生まれ。元衆議院議員。現在、新党大地代表。著書に『北方領土 「特命交渉」』(佐藤優との共著)などがある。

プーチンの世界

フィオナ・ヒル他(著)/濱野大道他(訳)

新潮社
2016年12月12日 発売

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