そのゆで卵を、どうするのか?
どんぶりが到着すると、そこにドボンとゆで卵を投下して食べ始める。中には一口かじってどんぶりを待つ人もいる。長年にできあがった「寒川そば」の儀式みたいなものだろう。
メニューをみると、カレーライス(500円)、カレーそば・うどん(500円)、かけそば(350円)、月見そば(400円)、たぬきそば(400円)、きつねそば(400円)、山菜(400円)、天ぷらそば(400円)とシンプルな構成だ。
早速「天ぷらそば」(400円)を注文した。女将さんは茹麺をさっと湯通しし、つゆをかけ、大きいかき揚げ天をのせて手際よく完成させた。つゆを一口飲んでみる。赤味のきれいなはっきりとしたつゆで、出汁がしっかり感じられる。千葉の大衆そばの味だ。
そばは茹麺だが、角のあるコシのしっかりした麺である。最近、東京ではお目にかかれない麺である。昔はこういう茹麺を使った店がもっとあった。
かき揚げは具がしっかりと大きめ。クリスピーなタイプではないが、つゆにひたすと徐々に旨さを花開くタイプだ。どれも突出しているというわけではないが、はっきりしたつゆ、角のある茹麺、しっかりしたかき揚げと三拍子そろっている。食後の満足度が高い一杯に完成されている。
早朝4時に開店すると大勢の常連さんが押し寄せる
カレーライスも人気のようだ。ターメリックの明るい黄色が食欲をそそる。人参やたまねぎが大きめにカットされて十分煮込まれている。こういうカレーを出す店も随分少なくなったとしみじみ思う。
「寒川そば」は創業50年を越えているそうだ。創業当時から利用者は湾岸労働者やトラックの運転手が多かったのだろう。早朝4時に開店すると大勢の常連さんたちが一杯の旨いそばやカレーライスを求めて押し寄せてくる。
ドライブインみたいに沢山のメニューを作るわけではなく、そばうどんの味を極め、カレーの味を追求して、手軽に食べられるメニューに絞った結果、今のさりげない味と人気が定着した。そんなヒストリーが感じとれる。近所にあれば毎日通うことは間違いない。
よく食べた旨い大衆そば・立ち食いそばの味は、その人の生き様や人生の記憶にさりげなく寄り添って残り続ける。だからこそ、どの人にも自分にとって日本一の味があるのだと思う。
写真=坂崎仁紀
寒川そば
千葉県千葉市中央区寒川町3-41
営業時間 4:00~22:30
日曜定休