バラエティ番組『ホンマでっか!?TV』などでも活躍する生物学者・池田清彦氏が、『本当のことを言ってはいけない』(角川新書)でアルツハイマー病、がんなどの病気について本音で解説する。

老人の病気は自然選択の枠外

 50歳代までは、不治の病気になるのも、交通事故に遭うのも、本人にとっては青天の霹靂みたいなもので、本人でない多くの人は自分でなくてよかったと思い、親しい人は首尾よく回復してくれればよいのにと思い、中にはザマア見ろと思う人もいるかと思うが、どのみち稀な出来事であることは確かである。それが60歳を過ぎる頃から、がんになるのも、痴呆になるのも、脳梗塞になるのも、むしろ当たり前の出来事になってくる。

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 しかしこの頃から体や頭の具合の良し悪しは個人差が大きくなり、特に痴呆に関しては70歳頃にはすっかり呆けてしまう人もいれば、90歳や100歳になってもしっかりしている人もいる。認知症の割合は、65歳から69歳までは約3パーセントだったものが、年齢が5歳増すごとにほぼ2倍ずつ増加して、85歳から89歳までは40パーセント、90歳から94歳までは60パーセント、95歳以上は80パーセントになる。不思議なことに、痴呆率は80歳代までは女性の方が多少高いくらいであるが、90歳代になると、女性の方が圧倒的に高くなり、男性の痴呆率は90歳代を通してほぼ50パーセントなのに対し、女性は90歳から94歳まで65パーセント強、95歳以上は84パーセントに激増する。

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 なぜ女性の方が痴呆率が高いのか不思議な気がするが、男性は90歳を過ぎて認知症になるとすぐに死んでしまうが、女性は痴呆になってもしぶとく生きているのかもしれない。平均寿命と健康寿命の差すなわち死ぬまでの要介護の年数は2016年の統計で男性が8・84年なのに対し、女性は12・35年ということも関係しているのであろう。団塊の世代がすべて75歳以上になる2025年には、65歳以上の高齢者の19パーセントが痴呆になるとの推計もある。

 高齢になるほど認知症の割合が増えるので、当然、超高齢化社会の日本の全人口に対する認知症の割合はOECD加盟国一で、2017年の統計では2・33パーセントであった。年金の財政が破綻することが分かっている政府は、平均寿命が100歳になるとウソをついて、高齢者を働かせようとしているけれど、認知症の人を働かせるのは難しい。