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平均寿命100歳に潜むウソと罠――老人が乗り越えられない“試練”とは?

『本当のことを言ってはいけない』(角川新書)

2020/01/16

有効な治療法もなければ、有効な予防法もない

 認知症のなかで一番多いアルツハイマー病は、有効な治療法もなければ、有効な予防法もない。90歳過ぎてもアルツハイマー病にならないで、生き続けられるのは、余程の僥倖である。生物としての人間の繁殖可能年齢は大体50歳なので、50歳を過ぎてから子孫を残すことはまずない。繁殖期が終わるまでに身心の具合が悪くなる遺伝的な性質は、直接的な遺伝病でなくとも、特定の病気にかかりやすい性質といったものも含めて、自然選択による淘汰圧がかかり、人類の集団から除去されてきたと考えられる。

 しかし、繁殖期を過ぎて発症する多少とも遺伝子が関与している疾患は、自然選択による淘汰圧がかからず(遺伝子はすでに子供に伝わっているので)、人類の個体群から除かれないのだ。別言すれば、自然選択は老人の病気を減らすことに何の味方もしなかったので、老人になって、あちこち体や頭の具合が悪くなることは仕方がないのである。遺伝的な組み合わせがたまたまいい人だけが、致命的な疾患にならずに長生きができるのである。

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 誰でも努力をすれば、世界一長生きしたジャンヌ・カルマンさんのように122歳5か月まで生きられるということはあり得ない。105歳まで生きた日野原重明さんの睡眠時間は4時間半ということだが、日野原さんの真似をしても100歳を過ぎてから1時間もの講演ができるものでもない。普通の人は90歳を過ぎて4時間半しか眠らせてもらえなかったら死んでしまうと思う。私は毎日8時間くらい眠らないと具合が悪い。

歳をとれば、がんが発症するのは仕方がない

 歳をとったらうまいものを食って今日明日の楽しみだけを考えて、適当に生きているのが一番幸せで、死病になったら諦めるほかはないと思う。そうは言っても煩悩に支配された凡人はなかなかそうもいかないことは、私も凡人の一人としてよく分かっているが、歳をとれば、がんが発症するのは仕方がないのだ。毎年、律義にがん検診を受けて、がんが発見されると医者の言いなりに治療を受けても、生き延びられるとは限らない。私はもう20年以上、がん検診を受けたことはない。

 近藤誠の言うように何もせずに放置しておいた方が長生きできる場合も多いと思う。前立腺がんの治療を受けた後の5年生存率は98パーセントを超えるという。30年程前まではこの率は50~60パーセントくらいだった。早期発見、早期治療で予後が良くなったと思われるかもしれないが、その間、同様に早期発見、早期治療が進んだ大腸がんの5年生存率はほとんど変わらない。前立腺がんの場合は、放っておいても死なないがんもどきを見つけて無理に治療をしているのだ。それで見かけ上の5年生存率が上がったわけだ。欧米では前立腺がんは無理に発見しようとしないで、発見してしまった場合も無治療で様子を見るのが一般的だ。日本のように無理やり治療に誘導するのは医者の利権である。