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鎌田 例えば、リクルート事件裁判の法廷で、創業者の江副浩正さんを調べるときに、これを認めてくれたら、勾留を短くするからといったことがあったと表に出たことがありました。もちろん取調官は否定するのですが、そういう調べ方はフェアではないというふうに弁護側は攻める。

リクルート創業者・江副浩正氏 ©文藝春秋

熊崎 厳格な精密司法の中で、どうやって取調べ能力を磨いていくか、いかに相手に真相を話してもらうか、いかに証拠物を収集するかということに苦労しましたね。だから司法取引に頼ることが、検事の取調べに対する気構えや取調べ能力を磨くことに影響が及んでしまうのではないかと、内心気にかかるところはありますね。事件は、取調べによる供述でしかわからないことも多い。

 司法取引は捜査にとっては大きな武器であることは間違いない。今後、定着して効果を発揮するものと考えます。ただ運用を誤ると、とんでもない刑事司法の世界になることもあり得る。取引の合意をすべきかどうかについては、検察は十分吟味して、慎重に対応しなければいけない。加えて、取引によって得られた供述に虚偽がないか十分に留意して分析し、十分に裏付けを取ることに奔走しないといけません。

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鎌田 日本の検察、司法の特徴は、精密司法です。供述の裏付けをとること、証拠の分析が重要であることは変わりありませんね。

熊崎 厳格、厳密な立証を求められ、この精密司法を実践した検察が日本の刑事司法の中核を支えてきたという歴史があります。100%近い有罪率は、精密司法によるところが大きい。

捜査の3つのポイント

鎌田 ゴーン氏の事件捜査のポイントをどう見ていますか?

熊崎 一つ目は、逮捕以前から日産が内部調査を始めていて、その中で検察に情報が持ち込まれ、そして司法取引もおこなわれたことです。早い段階で検察も内偵を始め、着手までに時間をかけて裏付けを含む証拠を収集していますから、ゴーン氏を自白させないとわからないことは、あまりなかったのではないか。とりわけゴーン氏という世界的に著名な経営者の刑事責任を追及した以上、その影響の大きさを考えれば、検察に失敗は絶対許されない。検察は予断を排除した厳正、公平な捜査を貫いているはずです。

 二つ目は、ゴーン氏を在宅起訴にするのではなく、逮捕したことです。身柄拘束したのは、証拠隠滅や不出頭、逃亡を防いで、広範に証拠を固めて本格捜査をおこなうためだったのでしょう。逮捕、勾留自体は的確な対応であったと思う。

日産自動車株式会社 ©iStock.com

 三つ目は、国際性を帯びている点が、特捜部がこれまで扱ってきた事件史を見ても、異質だと言えます。僕らは公権力の悪や大企業の特殊犯罪に対峙してきましたが、あくまで舞台は国内でした。この事件の舞台は日本からサウジアラビアやオマーンにまたがっていて、ゴーン氏は外国の方。検察は主として外国にまたがるお金の流れの解明に注力しているはずです。捜査でしっかりお金の流れが解明できたかどうか、弁護側も裁判で争ってくるのではないでしょうか。