最近、北朝鮮問題が連日メディアを賑わせている。ミサイルばかりが話題となっているが、怖いのはそれだけではない。著書『ゼロデイ 米中露サイバー攻撃が世界を破壊する』で、イランの核施設をアメリカが攻撃した「スタックスネット」からロシアによる米大統領選への介入まで、サイバー攻撃の歴史と現在を豊富な取材とエピソードで解説したジャーナリストの山田敏弘氏は、北朝鮮が持つ、もうひとつの知られざる武器についても警鐘を鳴らす。
◆◆◆
朝鮮人民軍偵察総局が抱えるハッカーは6000人以上
頻繁に繰り返されるミサイル発射実験、いつ実施されてもおかしくない核実験――とにかく北朝鮮をめぐって緊張状態が続いており、アメリカや中国、ロシアなども巻き込んで、今後も挑発行為は続くと見られる。ただ筆者の取材では、少なくとも米政府側から見ると、まだ北朝鮮に対して武力行使を行うほどの切迫した状況にはなっていないようだ。
北朝鮮の瀬戸際外交は相変わらずといった印象だが、現在こうした問題と同じくらい北朝鮮が世界で注目されている事象がある。そう、サイバー攻撃である。
5月12日から、世界150カ国以上に「WannaCry」などと呼ばれるランサムウェアが拡散されたサイバー攻撃は記憶に新しい。欧米各国やセキュリティ企業は今、使われたランサムウェアの解析を進めているが、この攻撃に北朝鮮が関与しているのではないかという疑いが浮上している。その理由は、「WannaCry」のソースコードに北朝鮮が過去に行ったサイバー攻撃で使われたマルウェア(不正プログラム)のソースコードとの類似点が見つかったからだ。
北朝鮮はインターネット後進国だと思われがちだが、実は、サイバー攻撃に関しては世界でも有数の実力を持っている。
北朝鮮でサイバー作戦を担っているのは、朝鮮人民軍偵察総局だ。中でも121局という組織が優秀なハッカーなど6000人以上を抱えているとされる。また偵察総局には91部隊という組織もあり、こちらはハッキングを専門に行っていると見られている。今回のランサムウェアでも犯人として名前が挙がった謎のハッカー集団「ラザルス」は、この121局との関係が指摘されている。
ラザルスは2009年から活動しているとされているが、近年、北朝鮮のサイバー部隊はサイバー攻撃史に残るような事件をいくつも起こしてきた。2013年3月には「ダークソウル」という名のマルウェアを使って、韓国の主要放送局2社や金融機関などに対して一斉にサイバー攻撃を仕掛けている。この影響で、韓国内では大量のコンピューターのデータが消去されたり使用不可能となった。
また2014年には、米カリフォルニア州のソニー・ピクチャーズのオフィスをサイバー攻撃している。この攻撃は同社が公開予定だった、北朝鮮最高指導者の暗殺を題材にした映画『ザ・インタビュー』に対する抗議・妨害の意味があったようだ。その結果、社外秘である映画の制作計画や俳優の内部評価、ギャラ、健康情報などが盗まれ、ネット上で公開されてしまう事態となった。筆者は当時、アメリカで取材にあたったが、米政府や米軍の関係者らは北朝鮮の犯行だと断定していた。