「遊説隊の備品リスト」22項目
私が入手した遊説隊の備品リストがある。22の項目の中には「龍角散」や「うがい薬」、「のど飴」などバイク以外の必需品が書かれている。選挙中、12時間もぶっ続けで田園地帯を走り回っては有権者たちと触れ合う。ある地点で数十分の辻説法を終え、沿道に人が出てこない大通りを走っているわずかな暇だけが、人と言葉を交わさないで済む瞬間だ。中村はそのタイミングを見計らって口に飴をぶち込む。そうでもしなければ、声は持たないらしい。
バイクにまたがり、座りっぱなしの毎日なのでお尻の皮も剥けてくる。座席のクッションは当選を重ねた数だけ改良を続けてきたそうだ。その詳細を本人に聞き込もうとしたが、「いろんなクッションを組み合わせている」と話す以外は多くを明かそうとしなかった。
スタッフがハンドルに装着したヒーターもオフに
中村を支えるスタッフたちの間で語り継がれている、こんな逸話もある。
中村はバイクで走っている間、どんなに寒かろうと右手には手袋をしない。外に出てきた有権者を見つけるなり、バイクを停めて握手に応じられるよう、いつでもスタンバイしているからだ。
真冬に選挙が行われた際、スタッフたちが気を利かせてバイクのハンドルにヒーターを装着したことがあった。寒い朝、遊説に出た中村はほどなくしてそのスイッチを切った。
「これではダメだ」
いつものように、そこかしこでおばあちゃんたちが握手を求めてくる。彼女たちの手はヒーターで温められた自分のそれよりも冷たい。これでは「必死さ」が伝わらない――。
中村は迷わず、バイクから装置を外した。
「こちらのコンディションが悪ければ悪いほど、有権者には思いが伝わる」
中村は自分にそう言い聞かせるように周囲に諭した。
――いくらコンディションが悪くても満面の笑みでバイクに乗り続けなければならないんですね。
「元気を装うんですよ。『中村さん、いくつなんだい?』と聞かれて、答えると『若いねえ』と驚かれる。本当はヨレヨレなんだけど。『中村はオートバイが好きだから乗っている』と言っている人を見つけたら、蹴飛ばしたくなりますよ。楽しく乗っていられるのはせいぜい2日目まで。3日目以降は、もう見たくもない。そういう思いですよ」
――遊説隊の備品リストには「リポビタンD」も書かれていました。
「私は飲まない。疲れてくると体力を失うでしょう。リポビタンDを飲みたくなる。飲んじゃうと夜眠れなくなる。興奮して夜中に目が覚める。疲れが取れない。だから、リポビタンDを1本も飲まないでやる。だけど、眠くなる。眠くなって倒れる可能性がある。体力の極限まで行く。そういう状態でバイクに乗っているんです。『日本一選挙に強い』と言われるけど、こっちは命がけなんだ」