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 68歳6か月で迎えた14期目に挑む2017年の衆院選では、初日に倒れた。ただし、人前ではなかった。中村は選挙期間中、朝8時から約30か所でマイクを握った後、16時頃にいったん切り上げて自宅に戻る。シャワーで汗を流し、ポスターと同じ「昭和の二枚目」と同じ格好に整えてから、毎晩19時に始まる屋内での個人演説会に臨む。そこに出向く前、自宅に立ち寄った時に意識が朦朧としてきたようだ。

 家族やスタッフたちが心配そうに見守る中、目をつぶっていた中村は何やら演説を唱えるように口元だけがパクパクと動いていた。いよいよ出発の時間に差し掛かり、周囲の誰もがすべてを諦めた瞬間、中村はスッと起き上がった。そして何もなかったかのように、「中村喜四郎」の顔をして数百人が集まるホールで2時間以上もぶっ続けで熱弁を振るったのである。

選挙演説で熱弁を振るう中村喜四郎氏

「喜友会の人たちは、雨でも雪でも中村喜四郎は必ずやってくると信じているから。『やっぱりカッパ着て来た!』と言いながら大喜び。『ガンバレー』と叫んでくれる。ヘルメットをかぶって赤いジャンパーを着て来るのが『中村喜四郎』だから、雨だからと言って車に乗っかって来たら、みんながっかりしちゃう。家の外まで出て手を振る意味はない、となっちゃう」

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「オートバイサーカス」という演出

 選挙期間中に行われるオートバイの街頭遊説は、地元の人たちにとって中村喜四郎の代名詞のようなものだ。そこにも中村が選挙の現場で培ってきた試行錯誤の結果が凝縮されている。中村は「オートバイサーカス」と称し、「企業秘密」を惜しみなく明かしてくれた。

「あれは、ただオートバイを乗っているわけではないんです。見ている人、聞いている人に興奮してもらう。そのためには一生懸命に乗る。ブーンと轟音を立ててやってきて、急にキュッと急ブレーキで止まる。カ、カ、カ、カ、カと一人ひとりに握手して、『頼むよ』と言って、ブルン、ブルンと煙を吹かせて次の遊説先に旅立って行く。一種のオートバイサーカスなんですよ。それが楽しみでみなさんが集まってくるわけだから。

 親の選挙もバイクでやってたから、当時から『ただ乗っているだけじゃダメだ』と気づいて、見ている人にハラハラしてもらえるように演出することを心がけた。『バイクの曲芸だ』と言ってくれる人もいますよ」

――そんなに奥深いモノとは思っていませんでした(笑)。

「奥深いかはわからないけど、ちゃんと考えてやっているんですよ。

 中選挙区時代は今よりも選挙区が広かったから、街頭演説の会場に予定より1時間も遅れて行くことになるわけですよ。そうすると、みんな怒っている。『オレたちをこんなに待たせやがって』と。そこにもブーン、キュッ、カ、カ、カ、カ、ブルン、ブルンと一通りやって、去っていく。『あんなに頑張っているんだったらしょうがねえべよ』となる。怒っていた人も納得して帰る」