骨を握られるような感触だった「握手」
私は興味の向くまま、中村に握手を求めてみた。「握手にすべてを込める」とも強調するからだ。右手を差し出すと、中村はわざと歯を食いしばる素振りを見せながら、両手で握りしめてきた。その間、1秒にも満たない。「ギュー」というより「グッ」の一瞬。彼の選挙を10年以上も観察してきたライターの畠山理仁はネット上の記事で「グググッ」と表現していたが、なるほど、手というよりも、骨を握られるような感触だ。中村が手を離した後も、私の手の甲にはじわじわと余韻が残った。
そんなことをしていると、テーブルに人数分の鰻重が運ばれてきた。育ち盛りの若者のようにウインナーやポテトフライを頼む中村のペースに合わせていると、さすがの大食漢の私でも限界に達した。
中村はご飯を飲み込むと、大きくため息を吐き出すように言った。
「この作り上げたイメージを守り抜くためにはね、すさまじい努力をしていますよ。政治とは格闘技だから、悠長な気持ちでやっていたら大変なことになる。ちょっとしたことで油断したら丸裸にされてしまう」
中村が言う「すさまじい努力」とは何か――。
私は無性に気になった。
本人に問うと「まあ、いろいろやっていますよ」とだけ答え、煙に巻かれた。その後も会うたびに聞き出そうと試みた。
どうやら東京にいる平日はほぼ毎日、スポーツジムに通っているようだ。そこでランニングマシンに乗り、時にはエアロバイクにまたがり、ひたすら足腰を動かす。誰とも話さず、音楽も聴かずに、じっと前を向く。多い時には2~3時間コース。徹底的にじっとり汗を流す。モニターに表示された「歩行距離」や「消費カロリー」はその場でメモを取り、帰宅後に電卓を叩いて月間の平均値などを割り出すという。
「自分の心が乱れているか、乱れていないかがわかる。今月もこれだけできたと自信にもなる」
中村の「千日回峰行」は続く。
息子が明かした「ジム通い」という戦い
息子のハヤトに話を聞いた際、父が多くを語ろうとしない「極秘トレーニング」について補足してくれた。
「裁判をしている時期は『中村さん、ここでこんなことをやっている場合なんですか』と憎まれ口を叩かれることもあったようですが、本人はジムに『戦い』に行っているんです。趣味じゃなくて、自分で決めたことを実行できるかどうかを毎日試している。良かった、今日もできたと、そうやって一日をリセットしている。逆に、一日でも休んだらできなくなる。モチベーションも萎えてしまう。それが怖いから続ける。
土日の街頭活動だって、普通の人があんなことできるかと言ったら、できないじゃないですか。だから続ける。続けることで人間的にも信用してもらえる。中村喜四郎というのは、何でもかんでもテクニックではなく、生き方に移してこだわっている姿を戦略化しているんです」
INFORMATION
【緊急告知!】
2/11(火・祝)、新宿ネイキッドロフトでトークイベントが開かれます。『無敗の男』ヒット記念・中村喜四郎を語りつくす!
https://www.loft-prj.co.jp/schedule/naked/136640
【出演】 常井健一(ノンフィクションライター) 【ゲスト】 畠山理仁(フリーランスライター) 開場12時、開演12時半。イープラスにて、チケット発売中!