フィギュアスケートのネイサン・チェン選手は、2019年12月に行われたGPファイナルで羽生結弦を破り、3連覇を果たした。チェンはショートプログラムで2度、フリーで5度、合計7度の4回転ジャンプを成功させ、男子の歴代最高点を更新(335・30点)。オリンピック2連覇の王者・羽生にとって目下最大のライバルといっていいだろう。

 そのチェンが「文藝春秋」の独占インタビューに応じ、ライバルの羽生のこと、18年9月から通うイェール大学での日々、そして最終目標となる2022年の北京オリンピックへの想いを明かした。

 取材・構成を担当したノンフィクションライターの田村明子氏が、GPファイナル最終日に行われたチェンのインタビュー秘話を明かす。

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ネイサン・チェン ©getty

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 トリノで開催されたGPファイナルの最終日、米国フィギュアスケート連盟プレス担当者のマイケルと筆者は、パラヴェラ競技場の記者ラウンジ周辺をウロウロしていた。

「文藝春秋」という媒体の説明をし、どうしても今回のネイサン・チェンの取材は単独で時間をいただきたいとお願いしたところ、マイケルもネイサン本人も快諾してくれた。

“ゴミ箱の横”での独占インタビュー

 だが、場所がない。やはりそれぞれ個別取材を希望した他の記者たち数名は、全員まとめてネイサンを囲むグループ取材となった。その彼らの手前、筆者ばかりがあまり目立つところで堂々と個別取材をしては、角が立つ。

 だが何しろこのパラヴェラは、2006年冬季オリンピックの会場になった建物にしては狭くて、裏に余分なスペースがない。まさか一般の観客の目につく表に出ていくこともできず、我々は折りたたみ椅子を抱えて、しばらく小部屋から小部屋へと彷徨った。

羽生結弦を初めてGPファイナルで破った

「ここはどうだろう?」とマイケルが提案してきたのは、カフェラウンジの横にある小部屋の、大きなゴミ箱の陰になったスペースだった。

「人の出入りが激しくなければ、ここで結構です」

 マイケルは手早く私たちのために椅子を2つ並べて、ネイサンを呼んできた。