セクハラ行為を行う先輩がいると添い寝の強要も
同じ内務班にセクハラ行為を行う先輩がいると大変なことになった。添い寝を強要されたり、自慰行為を手伝わせられたり、ひどいケースになると犯されたりする事件も起きた。上官に訴えれば訴えたで、後で復讐される場合もあった。心配した職業軍人たちが巡回して、「大丈夫か」とよく尋ねていたという。
これに比べれば、兵士としての訓練や警戒任務の方がマシだった。とはいえ、過酷な訓練や任務も当然あった。
催涙ガスを使ったガスマスク着脱訓練
新兵訓練で有名なものに、催涙ガスを使ったガスマスク着脱訓練があった。BC(生物・化学)兵器から身を守るため、極限状況に置かれた場合でマスクをきちんと着脱できるようにするための訓練だった。
20畳くらいの部屋に、新兵10~15人が教官とともにマスクを着けた状態で入る。密室状態にした後、教官が催涙ガスを使用する。知人は大学時代、警察が学生運動を鎮圧するために使った催涙ガスを吸った経験があった。しかし、軍が使うガスはそれと比較にならないほど強烈だった。知人の言葉を借りれば、「野球場1つの広さでも十分に効果があるガス」だったという。
そして、教官が「マスクを外せ」と指示する。外した瞬間、喉や目、鼻腔はもちろん、露出した肌全体にガスが突き刺さり、痛みを感じたという。反射的にガスを吸わないよう、息を止めるが、上官はそれを許さない。「軍歌を歌え」「立て、座れ」と矢継ぎ早に指示する。兵士たちは、涙や鼻水、よだれまみれになりながら、必死で指示に従う。
時間はそれほど長くはなく、1分ちょっと。それでも、当事者たちにしてみれば、永久に続くように感じたという。最後に、上官がマスクを再び装着するように命じ、訓練は終わった。
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