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「八兆」はこの世界の片隅に残り続けるだろう
これからの季節は冷したぬき(460円)もイチオシだし、自家栽培のミョウガ、ゴーヤ、シシトウ、なすの天ぷらも登場する。
気がつくと店は客でいっぱいになっていた。女性客も写真を撮りながらおいしそうに食べている。常連の営業マンだろうか「いつものね」とちくわ天そば(420円)を注文する。学生さんも大勢来店。近所の商店主が挨拶がてら食べに来ている。客の顔がみな明るい。うまいかどうかは、客の顔をみればわかるんだな。
うまい立ち食いそば屋には、共通する雰囲気や風情、オーラみたいなものがある。
老舗店のような高い敷居もなく、大枚を使うお得意さんもいない。たった数分で立ち去るあらゆる客と対峙している。そんなやり取りの中にうまい味が潜んでいる。何かが違う。三位一体の妙味とでもいうのだろうか。「八兆」には客と店が織りなすそういうオーラが存在している。
「八兆」の若大将はまだ若い。美人の若女将も働きものだ。
いつか自分が死んでも「八兆」は代を重ね千歳船橋できっと営業を続けていることだろう。一青窈の「ハナミズキ」のように百年続いてほしいと願っている。
INFORMATION
八兆
東京都世田谷区船橋1-9-45
営業時間
月~金 7:00~17:30
土 9:00~15:00
定休日:日・祝
写真=坂崎仁紀