5月26日は安部ちゃん記念日。そう、「安部ちゃん」こと安部友裕がついに規定打席数に到達し、打率.351でセ・リーグ打率トップに躍り出たのだ。フワフワとした高揚感につつまれた昼下がりのスタバ、「え? 今年のアベってそんなに打ってるっけ!? え? 慎之助じゃなくて? アベ? 誰!?」。決してサッカー派ではない、インフィールドフライくらいは説明しなくても分かるであろう野球女子にこう言われて私は愕然とした。
Google先生に「ヒーロー安部」と検索したら、優しい先生は「あなた、漢字間違えていますよ」と「次の検索結果を表示しています:ヒーロー阿部」を表示。画像に並んだのは阿部寛だ。阿部慎之助じゃないだけまだましじゃけど……。カープの背番号60「アベ」について知らん人に知ってもらおうじゃない。
タナキクマル世代の安部ちゃん
巨人に3連勝し、5月5日以来の首位で交流戦を迎えたカープ。1カード目の西武戦は、上位打線を担うタナキクマルが活躍し、白星スタート。思い返せば、菊池涼介と丸佳浩がキクマルコンビと言われはじめた2013年からはや4年。昨年から、そこに田中広輔が新たに加わり、タナキクマルと呼ばれるようになった。
この三人は同級生で、世の中全般には「菅野智之世代」「中田翔世代」と言われている平成元年生まれ(早生まれは除く)だ。しかし、広島ではタナキクマル世代の方がしっくりくるし、ピンとくる。投手には昨年のセ・リーグ最多勝投手・野村祐輔もいて、今のカープを引っ張る黄金世代だ。今シーズン、このカープ黄金世代の中から、新たなスターが生まれつつある。2008年ドラフト1位で丸と同期入団、今年で10年目となる「安部ちゃん」こと安部友裕だ。
菊池と丸がキクマルコンビと呼ばれるようになった年に、安部ちゃんは6年目にして初めての開幕一軍スタートを経験した。そのまま一軍定着とはならなかったが、二軍で9月に12試合連続安打を記録し、ウエスタン・リーグの月間MVPに選ばれている。
2014年は首脳陣から期待されていたものの、3試合の出場のみ。正直、その頃の安部ちゃんは梵英心の控え、又はヒーローインタビューの後のヒーローへの水かけ役というイメージしかない。同級生で同じ内野手の菊池と田中が活躍し、その頃はどん底だったと本人も語る。「このままだとクビになるかもしれない」と後ろ向きになったこともあったという。しかし、そこで腐らなかった。
2015年に一軍に帯同するようになると、同級生と一緒に活躍したいという気持ちがさらに増していった。そして、昨年は中日から獲得したルナとのサード争いを繰り広げながら、115試合に出場。優勝を決めた9月10日には7番サードでスタメンとして出場するまでとなっていた。
“覇気”へのこだわり
さらなる期待が高まる10年目の今年、ついに初の1軍開幕スタメンを勝ち取ると、4月1日の開幕2戦目、サヨナラ内野安打でカープの今季初勝利に貢献した。もちろんヒーローは安部ちゃん。春季キャンプ中にテレビ番組で“サヨナラヒットを打って覇気Tシャツを作る”という目標を掲げていた彼は、お立ち台で「覇気Tシャツ作ってくださーーい」と叫び、球場は笑いに包まれた。
"覇気"とは、安部ちゃんが2015年くらいからインタビューなどで使っているお気に入りのフレーズだ。試合前に観客席に投げ入れるサインボールにも、“覇気”の二文字が書かれている。「覇気のないプレーは見ている人も楽しくないでしょう。プロは試合を見にきてもらっている立場なので、気の抜けたプレーは絶対に見せちゃいけない」との思いで使っているそうだ。
活躍の場は多々あったのだが、極度に突出するタナキクマルの陰に隠れていた安部ちゃんがやっと顔を出したように感じられた日であった。次の日、球団から発表された安部サヨナラヒットTシャツはというと……、「覇気Tシャツ作ってくださーいTシャツ」だった。裏面には「抜けてれば覇気Tシャツ」の文字。
これは、目標の「覇気Tシャツ」ために、もっと頑張ってほしいという球団からのメッセージなのかもしれない。背番号60にちなんだ限定600枚はあっという間に完売だった。モチベーションそのままに5月10日、2013年以来の12試合連続安打を記録した。今度は一軍の舞台で。
この勢いで「安部ちゃん記念日」がやってきた。