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「30代前半でも早期退職を求められる」壮絶な日本企業の現場で起きていること

HRテックで人事評価がシビアになされるようになった結果……

2020/01/24

「HRテック」による容赦ない見極め

 特に、最近は会社の人事機能に人工知能(AI)を組み合わせた「HR(ヒューマンリソース)テック」が興隆してきました。ヒューマンリソースと言われると偉そうに聞こえますが、要するに人事屋のことです。

 いままでは、事業部長や人事部が一人ひとり社員の経歴や実績、配属要望、家庭環境などを見て「彼はこの部門に何年になるからそろそろ異動。ざまあ」とか「結婚して子どもができマイホームを買ったそうだから、きっと会社を辞めないので地方転勤。ざまあ」などとやりくりをしていました。企業の統治はグループ会社を擁して大きくなるほど人事のルールは硬直化するのが常で、「何年の年次の人は課長やらマネージャーやらに就く」といった不文律がスパゲッティのようになって、最近は転職市場も充実して透明化されてきたので、人の出入りは増えながらも組織を人事が作るという仕組みは当たり前にやってきました。

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 ところが、一部の国際的に揉まれている大手企業のHRテックはかなり容赦がなく、その人の経歴や実績などから割り出した「この人は、概ね何歳までにこの会社に利益貢献してくれそうか」という推測を元に組織人事の概略を決める形になっています。

 例えば、過去の職歴から海外赴任・駐在などで現場を回すことで利益を上げられる人材は概ね41歳から44歳までが利益のピークで、そういう人が日本に帰ってきて利益を出せるポジションに就いても海外経験が多すぎてむしろマイナスになるので、また海外事業を補助できる人事タイミングが来るまでコストセンターで良い部門に部下をつけず置いておくと会社にとって最大利益になる、とか提案してきます。

 もちろん、最終決済をするのは事業部長とかマネージャーの偉い人だろうとは思いますが、昔なら手作業で分厚い人事票パラパラめくりながら人事評価をにらめっこして配属を決めていたものが、裏で偉そうなプログラムが動いているにせよ条件を入力してボタン一発でスコアリングされた社内適任リストが出るようになったのは画期的です。

離職リスクのアップダウンも弾き出す

 あるいは、結婚や子ども、介護など家族に関するデータもあります。会社に対する離職リスクは「これから会社に貢献してくれると見られる経歴の人が、より高い収入を目指して転職してしまう」ことが最大だと評価しているのは印象的なことです。

 ある日自発的に理由を言わず未婚者が残業を減らすと離職リスクが上がり、既婚者が子どもを産んだり車を買い替えたりすると離職リスクが下がります。離職リスクが高いけど会社にいて欲しい人には花形部門を任せ、妻帯者で月の小遣い2万円クラブに入っているおっさんは人気のない発展途上国の現地子会社の社長にして汗をかかせる、という具合です。昭和の時代も令和の現代も、優秀な人が家庭やローンなど守るべきものができると会社を辞めなくなる傾向が強いのは不変のようです。

 それほど、結婚して子どもができると、勤め人の人生は一変します。過去40万人の人事データからどれだけの社員が勤め人であるという信用を利用してマイホームや車を買うのかが分かってしまいます。マイホーム離れ、車離れと言いつつも子どもの教育や親の介護が人生の重荷になるほど、大手企業勤務の看板で金融機関からカネが借りられるありがたさから「フラット35(長期固定金利住宅ローン)を活用する人は、50代まで自発的な離職リスクがほぼゼロ」という冷徹な結論を人工知能は弾き出すことになります。

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 ほかにも、行動遺伝学の見地からの性格が技能獲得や稼げる能力の拡大にどれだけ影響し、離職するのかしないのかは、もはやHRテックの定番とも言える基礎的な人事情報になってしまっています。その人がこの会社にいて稼ぐであろう金額と会社がその人に支払う賃金はどう設定すれば一番パフォーマンスが出るのかという問題は深刻です。明らかに企業側に情報が集まり、そこで働く人たちは一方的にスコアリングされ、まるでテトリスでもやるかのように「その時点での最適解」が示されているのが通常です。