文春野球の関西ダービー、お題は「監督」

 拝啓

阪神タイガースファンの皆さま。その後糸井嘉男選手の調子はいかがでしょうか。上下黒のユニフォームで打席に立つ彼を見た時、まさにリアルバットマンの登場かと、久々に私の中の少年の心が彼に鷲掴みにされました。

 また、福留孝介選手と並んでヒーローインタビューのお立ち台に上がったとも聞きました。Bs時代はどれ程勝利に貢献しても、なかなかお立ち台に上がってくれなかった彼。「阪神やったら立つんかい!」と、我々Bsファンの心にメラメラとジェラシーの炎が燃え上がったのは言うまでもありません。何より、毎日楽しそうにプレーする彼を陰ながら複雑な心境で応援しています。

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 金本知憲監督ならびに阪神タイガースファンの皆さまにおかれましては、まだまだ末長く彼をご愛顧頂けますよう宜しくお願い申し上げます。

 敬具

 さてさて、今回のコラムは阪神タイガース担当・山田隆道さんとのコラム交流戦。言わば文春野球の関西ダービーである。お題は「監督」。となれば故・中村勝広監督の話題か岡田彰布監督の話題か。しかしそれではあまりに阪神寄りの話題となってしまう気もする。いっそ惚けたふりをしてスティーブン・スピルバーグの話題にでもしてやろうか。いやいやここは文春野球コラム。その辺はわきまえて挑もう。山田隆道さん、どうぞ宜しくお願いします。

「監督」は「ミキシングエンジニア」?

 少年の頃は「監督」が一番偉い人だと思っていた。仰木彬監督、野村克也監督、森祇晶監督に星野仙一監督、まして王貞治監督に長嶋茂雄終身名誉監督、大沢啓二親分など「監督」と聞けば誰もが球団オーナー以上のオーラを放っていたイメージだった。

 しかし、大人になってプロ野球球団と一緒に仕事を手がけるようになるとそんな考えは一変する。我々が思っている以上にプロ野球球団はずっとずっと大きな組織で戦っているのである。経営をする人、戦力を整える人、新人を鍛える人、それにその戦力を使って実際にペナントを戦う人。GMや球団本部長、編成部長の役割も監督の仕事と混同しがちであるが、そもそも「監督」もひとつのポジション的役割であり、本来のその役割は至って明確である。

 野村克也氏が池田純氏(前・DeNA球団社長)とのある対談で「いかにして客を入れるかはあんたらの仕事、我々は勝つのが仕事」と語っていたが、「監督」の仕事とは現有戦力を駆使し勝利に導く事の一点にあるのだろう。

 我々音楽家の場合は「プロデューサー」がそれに当たるのかとも思ったが、そう考えると少し違うようだ。与えられた音源トラックを調整して優良の音楽に導くという点では「ミキシングエンジニア」と呼ばれる職業がまだそれに近いのかもしれない。ミキサーと呼ばれるツマミだらけの机の前に座っている人がそれである。この人たちがチグハグなミキシングをすれば、我々の演奏どころか楽曲すら台無しになるし、ミキシングの手法で駄曲が名曲になったりもするのである。

 野球で言うならば「プロデューサー」がGMや球団本部長、「ミキシングエンジニア」が監督、「ミュージシャン」が各選手に当たるのではないだろうか。