文春オンライン

奨学金の「ブラック」な実態。前途ある若者を食い物にしてよいのか

一族共倒れの危機を招く「ブラック奨学金」の破壊力

2017/06/20
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「サラ金」にも似た高額請求が降りかかる!

 私はNPO法人POSSEの代表を務め、これまで200件以上の奨学金返済の相談に関わってきた。

 相談の中から見えてくることは、若者の返済能力が乏しくなる一方で、JASSOの取り立てが苛烈になっている事実だ。病気で働けない場合や低賃金で支払えない若者にも、容赦なく請求が及ぶ。そして、本人に支払い能力がないと判断するや、即座に連帯保証人、保証人に請求が及ぶのだ。

 

 実際に、奨学金返済に関する相談は本人以外の家族・親類からも多数寄せられている。例えば、「甥が返済していない奨学金の請求が突然数百万円も来たが、本人とは連絡も取れない」といった相談だ。さらには、相談者の「いとこ」の延滞金が、保証人である自分の母親のところに請求されている、といった話もある。

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 しかも、たいがいそれは「巨額の請求」になる。返済が滞り、滞納が9か月を超えて続くと、JASSOは延滞分の金額だけではなく、借り手が将来返済する予定の金額(元本および利子)も含めて、裁判所を通じて「一括請求」を行うからだ。そのため、400万円、500万円といった莫大な請求が、突如、親類に及ぶことになる。

 また、それらにかかる「延滞金」は年利5%が、全額に付加される。「延滞金」は、訴訟が提起され、本人が自己破産し、保証人に請求が行くまでに膨大に膨れあがっている。まるで、かつての消費者金融被害のような様相を呈しているのだ。

追い詰められた保証人

今野晴貴さん

 典型的な事例を挙げよう。

 北関東の小さな街で生活する専業主婦のAさんは、会社員の夫と娘の3人暮らし。夫の退職後は月20万円以上になる年金で、2人ほそぼそと暮らしていく予定だった。

 そんなAさんのもとに、ある日突然、JASSOから一通の外三つ折りのはがきが届いた。はがきを開いてみると、「金額」の欄に元本103,341円、延滞金674円の合計104,015円という数字が書かれていた。

 どうやら甥が奨学金を借りたが返済していないということのようだった。さらに、義理の兄の名前が連帯保証人として記載されており、その下に、本人にも連帯保証人にもJASSOが連絡を取れていないことが明記されていた。

 甥は、東京の私立学校に進学するために4年間で総額450万円をJASSOから借りた。450万円の借入に対して年間1.4%の利息が付くため、返済総額は496万円。甥は今年の4月までの6年ほどは予定通り返済していたようで、すでに138万円を返済しており残りは358万円だ。しかし今年5月から返済がストップしており、ボーナス払いの月と延滞金を含めた104,015円が延滞になっている。

 そして現状では甥とも連帯保証人の父親とも連絡が取れないため、保証人である叔母のAさんに通知を送ったようなのだ。Aさんは不安を募らせた。

「連絡が取れない」ということは、もしこのまま甥や義理の兄が返済を怠ったとしたら、自分に全額請求されてしまう。延滞金も雪だるま式に増えていき、自分のところに請求が来る際には400万円を超える可能性があった。前述したように、滞納が9か月を超えて続くと、JASSOは将来の返済額を含めて全額を一括請求してくる。しかも、支払えない場合には、この「全額」に対して延滞金が年間5%の利率で発生するからだ。

「自己破産」の4文字がAさんの脳裏をよぎった。

 Aさんは、まだJASSOから請求が届いていることを夫には伝えられていない。夫に伝えることで関係が悪化するのを避けたいからだ。一方で、待っていても当人たちが解決してくれる希望もない。

 つまり、このままでは本人も連帯保証人も支払うことなく、Aさんに甥が借りた奨学金を全額請求される可能性が非常に高い。現時点ではまだ数百円程度しか延滞金が付いていないものの、延滞が9か月を超えれば、350万円余りの一括請求が甥に行き、これを支払えないと義理の兄、そしてAさんと請求が連鎖していく。その間にも360万円弱全額に延滞金年利5%が発生していくため、自分に降りかかるまでにどのくらいまで膨れ上がっているか、想像もできない。

 しかしAさんが支払いたくとも収入がなく、夫に話をすることもできない。請求された場合、離婚して自己破産するか、夫に払ってもらうかしかない。