いまや大学生の2.6人に1人が利用する奨学金。だが返済に追い詰められる例が急増している。高利貸しと化したそのシステムが、日本の未来を食い潰しているとしたら。
『ブラック企業』の著者である今野晴貴さんは、返済が及ぼす問題にいち早く取り組み、警鐘を鳴らしてきた。このたび、『ブラック奨学金』としてまとめられた内容からは、日本に広がる異様な状況が読み取れる。同書より、奨学金をとりまく実情を俯瞰し、解説していただいた。
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法的措置、年間8000件超の衝撃
突然、身に覚えのない多額の借金の請求書が自宅に届く――。今、全国各地でこんなことが相次いでいる。奨学金を借りた若者たちが返済に行き詰まり、その保証人になった人が日本学生支援機構(JASSO)に訴えられるケースが続発しているのだ。
長引く不況や雇用情勢の悪化から、奨学金を借りる学生は増加し続け、1998年度には約50万人だったが、2013年度には144万人へと、わずか15年で3倍近くに伸びている。いまや大学・短大生の約4割が奨学金を利用しており、1人あたりの合計借入金額の平均は、無利子の場合で236万円、有利子の場合は343万円にものぼる(2015年度)。新社会人になった若者の約4割がこれほどの借金を背負って社会に出て行く。
日本の奨学金はそのほとんどが貸与型であり、しかもその過半数が有利子での貸し付けだ。借入時には親族が連帯保証人及び保証人になることが一般的である。借りた本人が返済できない場合、請求は保証人に及ぶ。両親はもとより、祖父、祖母、おじ、おばにまで請求がいくこともまったく珍しくはない。
奨学金返済の延滞者に対し、2015年度に執られた法的措置は、なんと8713件にも及ぶ。これは、たった1年間の間に執られた件数である。2006年には1181件にすぎなかった法的措置が、2009年以降爆発的に増加し、高止まりしているのだ。
非正規雇用激増とブラック企業が原因
その背景には、大学を卒業しても奨学金を返済することができない若者が急増していること、そして、奨学金の貸主であるJASSOが取り立てを強化していることがある。
今日、非正規雇用の割合は3割を超え、大学新卒も、契約社員や派遣社員として「就職」することは普通になってしまった。非正規雇用の場合、正社員とは異なって将来的な昇給がほとんど見込めず、雇用も不安定になる。その上、住宅手当などの企業福祉の恩恵からも除外されてしまう。
また、最近では「ブラック企業」の存在も大きな社会問題になっている。ブラック企業では、若者は正社員として採用される一方で、長時間・低賃金労働を際限なく要求され、うつ病になるまで追い詰められる。
非正規雇用の割合が4割近く。残りの約6割の内、「ブラック企業」がまた相当な割合を占めているのでは、返済もままならない若者が大量に発生しても不思議ではない。