デザインが「コスト」から「価値の源泉」に
――民間のみならず公共など多様なプロジェクトを手がけられていますが、どれもクリエイターとの協業なんでしょうか?
広瀬 そうです。僕自身ももともと建築畑の人間なので、建築であれ空間であれプロダクトであれ、“モノ”としてのアウトプットがあったほうがやりやすい面はありますが、アイデアやものの見方、キャスティングについての提案だけをすることもあります。いずれにせよ新しくて根源的な意味をもつプロジェクトにして、その初期段階からクリエイターに入ってもらうと、その人たちにも新しい挑戦になり、がぜんやる気になるし、すごいものができやすい。そのための交通整理や土壌改良が僕の仕事、と言えばいいですかね。交通整理だけで数年かかることも少なくありません。
――そんなお仕事にシフトしていったそもそものきっかけは、目黒のホテル、CLASKAのプロデュースでしょうか。
広瀬 CLASKAですね。都市デザインシステム(現UDS株式会社)という会社にいたときに、築34年の老朽化したホテルをリノベーションすることになって、その企画から予算組み、キャスティングまでを任せてもらったんです。
――インテリア、グラフィック、インスタレーションや飲食店まで、いま見ると本当に豪華なチーム編成ですが、もともとこうやって外部の人と組みたいと思っていたんですか?
広瀬 今でこそ「デザイン思考」とか「クリエイティビティ」がビジネスのキーワードになっていますけど、2000年代前半はデザインとかグラフィックはほとんどのビジネスマンにとっては「コスト」としか見なされてなかったと思うんです。「どうしてもやらなきゃいけないの?」という感じで、それらに費用をかけることにすごく違和感を持たれがちでした。そこにこそ価値の源泉があるのに、ないほうがいい外注費みたいな扱いになっていることが嫌だったんです。
僕が考える「クリエイター」は何もデザイナーや建築家だけではなくて、職人さんや料理研究家とか、新しい価値を生み出す人はみなクリエイターだと思っているんです。とにかくクリエイターさんと一緒に仕事をし、頑張ったひとが普通にご飯を食べられる世の中になれば良いな、という気持ちはありました。
――カタカナの職業の人たち=クリエイター、ではないんですね。
広瀬 新しい価値を生み出すのが僕の定義するクリエイターですが、もちろん新しい価値を作らなくても大事な仕事はたくさんあります。新規性と独創性に溢れたお巡りさんがいてもちょっと困りますし(笑)、決まった手続きにのっとらないといけない職種も尊重されなければならないですよね。
でもその一方で新しい価値を作り出す人たちも必要です。世界的に見ても好調な企業は新しい価値を提案しているところばかりで、新規性と収益性はどんどん直結しつつあると思います。