昨秋、「東京ガーデンテラス紀尾井町」(東京都千代田区)の5~24階に新オフィスを構えたヤフー株式会社。フリーアドレス制の導入や、外部の人でも自由に入れるコワーキングスペース「LODGE」など、広がりつつある「新しい働き方を推進するオフィス」の象徴ともいえる存在として、注目を集めている。
週休3日制の導入検討など、働き方に関わる新機軸を次々と打ち出す同社COOの川邊健太郎氏から、この新オフィスの役員フロアのディレクションを依頼されたのが株式会社トーンアンドマター代表、広瀬郁氏だ。とはいえ広瀬氏は建築家でもなければ、デザイナーでもない。「プロジェクトデザイナー」というあまり聞き慣れない肩書を名乗る広瀬氏が目指した、組織の内と外での協働を促すオフィスのあり方とは――。
DIY感を出したオフィス
――前回、フリーアドレスは目的でなく手段であり、広瀬さんの発想はさらに会社の内と外にまたがった「アドレス」を作り出すことにある、というお話だったと思います。そういう働き方を進めるとき、組織側の意思決定のスピードは課題となりそうですね。社員として固定給を得ている人には想像が及びにくいのでしょうが、プロジェクトの遅延はフィーで働く外部の人にとっては金銭的な損失そのものですから。
広瀬 その通りです。ヤフーの場合、僕らがやりやすかったのは川邊さんが「プロジェクトオーナー」だと明言してくれたからなんです。もちろん会社としての最高経営責任者はCEOの宮坂(学)さんですが、新オフィスについてはCOOの川邊さんにほとんどの権限と責任がありました。いろいろな組織と組んできましたけど、ここまではっきりプロジェクトオーナーの存在を示されたのは初めてでした。
――宮坂さんからの要望はなかったんですか?
広瀬 当然、少しはありましたけど、ディテールの話でした。川邊さんとも共通しているのですがDIY感とか、あまりお金を無駄に使ってない感じを出してほしいと(笑)。そういう会社の価値観や文化の体現になるのがオフィスデザインの面白いところです。
「週休3日制」は話題になりましたけど、フリーアドレスの本丸はそっちですよね。家だろうがオフィスだろうが場所を問わず働ける。籍が社内にあるか社外にあるかは大きな問題にならない、そんな働き方です。セキュリティはシステム側でかなりの部分までクリアできるはずです。ホワイトカラーの人が、社内にこもって働くことは実は非効率かも知れないという認識が広がることが、本当のフリーアドレス化の第一歩なんだと思います。
「プロジェクトデザイン」とは?
――プロジェクトオーナーを明確にすることの重要性は著書『ブリッジング』でも強調されていますね。広瀬さんはご自身のお仕事を「プロジェクトデザイン」と呼んでいますが、「プロジェクト」の「デザイン」とは具体的にはどんなお仕事なんでしょうか。
広瀬 既存の組織にあるリソースに、外部の才能や人をかけ合わせて、新規性、創造性のあるビジネスにすること。それはすべて自前主義でやるよりも、誰かがちょっとお手伝いするほうがうまくいく場合が多いと思っているんです。そのお手伝いがプロジェクトデザインだと自分では思っています。僕らだけじゃなくて、あまたある才能を招き入れて参加したほうが断然おもしろくなると考えています。