文春オンライン

マクロン圧勝でも消えない、極右勢力の「核」

フランス小村の第一回投票を訪ねて

2017/06/18
note

村長自ら開票を手伝う

村長自ら投票箱を開ける

 村長が透明な投票箱をひっくり返して、薄青の投票用紙の入った封筒を机の上に出す。すると朝方のゆるい空気とはうってかわって、村議たちが無言で封筒を小さな山ごとに集め、100枚ずつ大きな封筒に入れ封をする。こうして開票作業の間、誰も手が入れられないことを保証するのだ。

マクロン新党か、国民戦線か

 二人が開票し、一人がそれを流しながら候補者の姓を読み上げ、机の向かい側ではさらに二人が別々に票数を数える。読み上げられた票は、書かれているものと相違ないか、もう一人が確認して、村長の手元に集められる。開票を聞いている限りは、やはりマクロンの「前進する共和国」とFN(国民戦線)が目立って多く感じた。

想像以上に多い、FNの候補者たちの名前

 ひとつの大封筒を終えたら、次を開封。こうした作業が45分ほど続いただろうか。後に知って驚いたことだが、開票に加わっていた村議の一人は、共産党から立候補し、他の候補者の名前同様に開票作業で名を読み上げられた一人だった。だから開票作業の透明性を確保するプロセスが必要なのだ。

ADVERTISEMENT

粛々と開票が進む

 投票267票のうち無効が8票で、有効票は259票。ブレジー・バで最大の票を得たのはマクロン新党の候補者で68票。続く第2位は極右FNの候補者で45票だった。

第二回投票は「デスマッチ」

 フランスの選挙は第一回投票がバトルロイヤルで、第二回投票が一対一デスマッチ、そう考えれば分かりやすい。この村で極右の候補者は2位につけたものの、第4区全体の他の自治体を含む結果では、第二回の決選投票に進むのはマクロン新党と、右派・共和党の候補者となった。

 が、驚くべきは、493分の68票=13.79%という、最大得票数のマクロン新党が有権者全体に占める割合の少なさだろう。ブレジー・バでのFNの493分の45票の得票率は9.13%に過ぎないが、この村で1位と2位の差は頭数で20人ちょっとでしかない。

村長自ら仕分けも

 フランスの下院選挙では、有権者数の1/4の票を獲得した候補者は第一回投票でも当選となる。誰も達しなかったら、有権者数の12.5%以上の票を集めた候補者が第二回投票にかけられる。12.5%を満たす候補者が複数いなければ、自動的にトップ2名の決選投票、という仕組みだ。

 マクロン新党への支持を票で表明する人が意外と少ないことも、下院で7割超えの議席数という、報じられているような勢いとは一致しない。2002年から大統領の任期が5年になって大統領選とほぼ同時に下院選挙が行われるようになって以来、シラクもサルコジもオランドも前任大統領が率いる党は、つねに下院多数派を手にしてきた。よってマクロン新党の勝利は、じつは驚くにあたらない。

マクロン「前進する共和国」党の候補者

 小選挙区制の難点は死票が多くなることだが、フランスの問題は棄権率が高まり浮動票も多い地合いの中で、その難点にブーストがかかっていること、さらには変化への期待がバラバラに極端な形となって表れていることだ。

 第一回投票後、マクロン新党の7割は圧倒的過ぎ、偏り過ぎという声がフランスでは多く聞かれた。過半数議席の獲得は動かないだろうが、6月18日の第二回投票でどんな揺り戻しがあるか、まだ気になるところだ。

投票の集計結果。マクロン新党の次に極右政党のFNが並んだ

写真=南陽一浩

マクロン圧勝でも消えない、極右勢力の「核」

X(旧Twitter)をフォローして最新記事をいち早く読もう

文春オンラインをフォロー