フランスの世論を象徴する小村

 フランスのエマニュエル・マクロン新大統領が率いる「前進する共和国」党は6月11日に行われた第一回投票で、連携する中道政党「民主運動」とあわせて6月18日の第二回投票を残して暫定見込みながら全577議席のうち約7割の415~455議席という、圧倒的な過半数スコアを挙げた。

 しかし50%を上回る棄権率の高さの中で得られる7割の議席数は、見た目ほどマクロン政権の強さを示すものではない。逆に下院選挙では弱体化したと思われている極右の根強さを、実際に6月11日、ブルゴーニュ地方コート・ドール県の第4区、ブレジー・バという小村の投票所を開票まで取材して、まざまざ見せつけられた。それは、目の前で見た実体が集計され数字として結実するにつれ、身震いさせられる経験だった。

ブレジー・バの街並み

「この村は、大統領選の一発目は極右がトップだったのよ。第二回投票はマクロンが7ポイントちょっとでひっくり返したけどね。まったく下院選はどうなっちゃうのかしら」

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 それこそ世間話の調子で、宿のマダムはつらつらと話してくれた。ブレジー・バは人口700人強の小さな村で、州都ディジョンからは25km、ローカル線で片道30分かけて街で働く住民も多い。一方で、周囲の斜面は放牧地で、地縁の農業従事者も少なくない。

 

 小村とはいえブレジー・バの含まれるコート・ドール県第4区の投票内訳は、大統領が右になっても左になっても「ねじれた」ことはなく、つねにフランス全国の趨勢と軌を同じくしてきた。「指標」といったら大袈裟だが、標準的といえる自治体だ。それが4月末の大統領選の第一回投票は、マリーヌ・ル・ペンが26.9%、2位は極左のジャン=リュック・メランション候補が22.83%と、極右と極左がツートップを占め、大いに荒れた。マクロン現大統領は3番手で得票15%弱に過ぎず、第二回投票で57.38%を獲得し、42.62%のル・ペンを逆転した格好だ。

 大統領選時の情勢が一か月半後の下院選挙にそのまま反映される訳ではないが、2日先立って行われた英国下院選挙の結果は、おそらくフランスの浮動票層にとって反面教師となっただろう。EUの足元が揺れている今、発足して間もないマクロン大統領の政権運営を、議会過半数を与えないで弱体化させるのは得策ではない、と。