突然の悲報が世界中を駆け巡り、その衝撃はスポーツ界だけでなくあらゆるフィールドに影響を与えている。

 NBAのレジェンドのひとりであるコービー・ブライアント。彼の乗るヘリコプターがロサンゼルス近郊で墜落し、13歳の娘とともに急逝した。享年41だった。娘のバスケットボールの試合に向かう途中で、当時の現場付近には霧が立ちこめていたという。

1月26日に亡くなったコービー・ブライアント。41歳だった ©getty

5度のNBA制覇、オールスター18度選出、2度の五輪金メダル……

 現役時代は名門ロサンゼルス・レイカーズで20年プレーし、実に5度のNBA制覇を達成。個人でも史上4位となる通算33,643得点を記録していた。オールスターにも18度選出され、米国代表でも「ドリームチーム」を結成した2008年北京、12年ロンドンと2大会連続で五輪の金メダルを獲得している。

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 コービーはNBAでは珍しい高卒選手としてレイカーズに入団。ドラフト13位指名でスタートしたNBAのキャリアは、最初の評価としては決して高いものではなかった。それでもここまでの実績を残し、ファンの心に刻まれる選手になったのは、彼の愚直なまでにバスケットボールに打ち込む性格と、強靭なメンタリティの賜物だったように思う。

1996年から引退する2016年までレイカーズ一筋でキャリアを過ごす ©文藝春秋

IMGの創設者が語り始めた「ある高校生の話」

 実はあまり知られていないが、コービーはIMGアカデミーの出身者である。日本ではテニスの錦織圭が通っていたアカデミーとして有名だろう。

 IMGアカデミーは世界最大級の総合スポーツ教育施設で、バスケットボールやテニスだけでなく、野球、アメリカンフットボール、ゴルフなど、多くの競技でトップレベルを目指すプロの卵が集まるところである。

 3年ほど前、アカデミーの創設者でもあるニック・ボロテリーに話を聞く機会があった。ニック自身はテニスのコーチとして、アンドレ・アガシやマリア・シャラポワを育てあげた名伯楽だ。

現役引退試合となった2016年4月13日のユタ・ジャズ戦。キャリア6度目となる60得点を記録し、有終の美を飾る ©getty

 彼はアカデミーの理念について、こんな話をしていた。

「あくまでここはアカデミー=学問を身に着けるところなんだ。単なるスポーツ選手の養成だけが目的じゃない。すべての選手がスポーツで大成できるわけではないし、夢破れる選手だって多くいる。だからこそ、ここでは大学進学を念頭に入れて、しっかりと勉強もするように教えているんだ」

 スポーツで成功できる人間などほんの一握り。ほとんどの選手は途中で夢をあきらめ、別の道を歩むことになる。その選択肢を広げるためにも、大学への進学というのは重要なんだ――そうニックは熱っぽく語っていた。