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 現地のSNSでは、新型肺炎の対策として「部屋を50度以上にするとウイルスを退治できる」「ごま油を毎日出かける前に鼻に塗れば予防できる」などというデマも流通しているという。WeChatを運営する中国SNS大手のテンセントが情報の真偽を確認するファクトチェックのサイトなどを立ち上げているが、焼け石に水という状況だ。

 さらに安田氏は、SNS発の情報についても出所を確認すべきだと言う。

「SNSでは、現地の医師とみられる人物が泣き叫ぶ動画や、病院で布団に包まれた死体の写真が広く拡散されて不安が広がっていますが、出所が不明なものはデマの可能性も疑ったほうがいい」

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「武漢の病院の布団に包まれた死体」として、SNSで拡散されている画像の一つ

情報隠蔽が事態を悪化させた

 このようなデマ情報が出回った背景には、中国当局の対応の遅れに対しての国民の焦りが根底にあるという。中国駐在の長い産経新聞外信部デスクの矢板明夫氏が語る。

「今年の1月1日、武漢の警察当局は、『原因不明の肺炎』についての情報をネットに流した8人を拘束しています。厳重注意で済んだそうですが、公安当局はそのとき『デマを広め秩序を乱す行為は許されない』という声明も出した。本当はこの時点でも、武漢の病院ではどんどん患者が増えていて、受診は数時間待ちという状況だったにもかかわらずです。結果として、市民の間にも『本当のことは伝えてもらえない』『本当のことをいうと犯罪者扱いをされる』という意識が生まれてしまいました」

 武漢市の医師たちが昨年末、市当局から「許可を得ずに公共の場で感染状況を語ったり、メディアの取材を受けたりしてはならない」とする通知を受けていたことも現地誌が報じている。

北京市内では今は皆マスク姿だ ©AFLO

「ここまで事態が大きくなってしまった原因の一つは、政府による『情報隠蔽』です。医療現場に箝口令を敷き、感染が徐々に広がった後も『人から人への感染はない』との情報を広めて、結果として1月25日から始まる旧正月・春節に合わせて武漢から数百万人の人が流出してしまった。

 ちょうど新型肺炎が蔓延した1月は、3月に開かれる中国の国会にあたる全人代(全国人民代表大会)の前に、地方の各省の議会が開催される時期。そこで新型肺炎に関するネガティブな情報が表に出ては議会が円満に終わらない。この思考のため、中央政府に事実が伝わるのが大幅に遅れてしまった」