世界的な流行となりつつある中国・武漢で発生した新型コロナウイルスによる肺炎。中国の保健当局によると、1月29日現在の患者数は7700人を超え、死者も170人となった。
日本でも1月28日、武漢への渡航歴のない感染者が確認され、厚労省も「国内で人から人への感染が起きている」との見解を示した。日本国内でも、いよいよ緊張感が高まっている。
今後の感染の広がりが気になるが、中国での感染者数について「2月第1週までに感染者が10万人に達するのは間違いない」と語るのは、流行データの分析が専門の北海道大学医学研究院(理論疫学)の西浦博教授だ。
西浦教授の研究チームは、1月24日の時点で800人程度と公表されていた武漢市内の患者数について「5500人」とする推計を、欧州専門誌に発表して話題となった。「週刊文春デジタル」では、西浦教授に今後の感染拡大について聞いた。
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2月には感染者は10万人以上に
――中国当局の発表では、1月29日時点の新型肺炎の感染者数は7700人と公表されています。西浦先生の推定結果は、どのようになっているのでしょうか。
西浦 私たちの推定では、1月27日正午の武漢市内の新型肺炎の患者数は、2万314人となっています。これは、中国本土以外で報告された感染者数と、武漢市から外部への渡航者数のデータをもとに算出した数字です。
24日時点で約5500人だったのが、たった3日で2万人まで増加したのは想定内です。現在は中国国内の「感染拡大期」と呼べる状況で、今後も日に日にびっくりするような数字が推定され、その数が現実性を帯びていくことになります。
特に今回の新型肺炎は軽症で済む人もいるので、そういった人は病院で受診しないかもしれない。また、受診しても症状は咳と熱だけでインフルエンザと診断されているかもしれない。そうすると、潜在的な患者数と実際に報告があがっている患者数との間に大きな乖離が出来てしまう。感染症研究では、実際の罹患者よりも診断される人数が相当少ない状況が生じる「診断バイアス」という用語があるのですが、今回の新型肺炎は、まさにこの「診断バイアス」が強くかかっています。実際の感染者が発表よりも多いことは確実です。