アナログ回帰の背景に“身体性”――熱転写式でアツアツの原稿を!
速水 ほら、アナログレコードとカセットテープが、ちょっと前までなら懐古ブームで片付けられていたのに、いまは安定的な定着モードに移ってきているでしょ。あらゆるデータがスマホ上でコントロールできるようになって以降の、新しい流れだと思うんだよ。
おぐら テクノロジーによってはぎ取られてしまった身体性を見直す動きですか。そういえば、速水さんも古いクルマに買い換えたって。
速水 最近ね、24歳のクルマ好きの男の子とバーで知り合ったの。彼は、マークIIとか180Sとかちょっと古い90年代くらいのクルマのマニアでさ、自分が省エネターボのヨーロッパ車とかに乗っているのが照れくさくなってきた。
おぐら で、国産車にしたんですか?
速水 うん。いやね、旧車ブームもかなりいくところまでいってて、80年代、90年代のビンテージといえない時代のクルマがヤングタイマーって呼ばれて高騰しているんだよ。俺の新車もそんな感じのやつ。オーディオはカセットテープね。
おぐら 電話はレガシーメディアとか言いながら、車とオーディオはアナログ回帰してるじゃないですか。
速水 旧車に手を出しておくならいまがラストチャンスかなって思いもあるんだよね。自動運転が当たり前になって、ガソリン車がレガシーになっていく前にと思って。
おぐら 電話に出ないのはいいとして、いっそ原稿もアナログ回帰で、手書きにしたらどうですか? 締め切り守れるようになるかもしれないですよ。
速水 それいい! 手書きって、超身体的なフィードバックがあるメディアだ。
おぐら 僕がこれまで受け取ったことのある手書きの原稿は、みうらじゅんさん、泉麻人さん、坪内祐三さんですかね。
速水 しかも、その手書き原稿を超レガシーツールのFAXで送ってみちゃったりして。やばい楽しそう!
おぐら オールドタイマーのビンテージFAXで。今なら憧れの名機も中古で安く買えるかも。
速水 そういうマニアいそうだよね。日本電信電話公社時代のファクシミリをキープしてます、みたいな。パスタマシンみたいな感じでリビングにあると格好いいな。
おぐら メールのない時代は、リアルタイムの文通としてFAXを送り合ってたっていう話も聞きますし、この対談もFAXでやりとりしますか?
速水 熱転写式でアツアツの原稿だ! さっそくヤフオクでビンテージFAX探してみよう!
はやみずけんろう/1973年生まれ。ライター。TOKYO FM『速水健朗のクロノス・フライデー』(毎週金曜日朝6:00~9:00)、同局『TIME LINE』(第1・3・5火曜日19:00~19:54)、フジテレビ・ホウドウキョク『あしたのコンパス』、日本テレビ『シューイチ』などに出演中。近著に『東京β』(筑摩書房)、『東京どこに住む? 住所格差と人生格差』(朝日新書)などがある。
おぐらりゅうじ/1980年生まれ。埼玉県出身。フリーの編集者として雑誌『テレビブロス』ほか、書籍や演劇・映画のパンフレット等を手がけている。企画監修を務めた、テレビ東京の番組『ゴッドタン』の放送10周年記念本『「ゴッドタン」完全読本』が発売中。