武漢政府レベルでは当初、遅々として進まなかった対策だが、国際社会、なかんずく世界保健機関(WHO)の注目を集めてからの行動は矢継ぎ早だった。
SARSの存在を世界に隠蔽したことがかえって感染拡大を招き、大バッシングを受けた記憶は、北京政府にとって、いまだ鮮烈だったに違いない。23日には武漢市の公共交通機関を運休。26日には中心部での車両走行も禁じ、他の自治体でも外出制限をかけた。27日には国民の団体海外旅行を禁じた。
ウイルスの拡大はすでに次の段階に移っている
ただ、同じ27日に中国国務院から発表された春節休暇の延長は、これまでの政策と違い、新型コロナウイルスの拡大がすでに次の段階に移っていることを示唆する。当初は1月30日までだった春節休暇は2月2日まで延長された。
1100万人の武漢市民の海外旅行を制限する意図は、ウイルスの発生源での封じ込めだが、春節休暇の延長が意図するのは、旅行客の旅行先での滞在延長。すでに移動した感染者を含む人々の、移動先での封じ込めを意味するからだ。つまり、中国からの拡散がある程度進んでしまった前提に立つともいえる。
さらなる問題は、この発表されている感染者の数字すら、実際の感染者の一部を指すに過ぎない可能性が高いことだ。まだ公式の感染報告が数十人だった12日時点で、日本人研究者を含むイギリスの研究機関は海外での感染者数から類推して1700人以上が感染しているおそれがあると16日に発表。22日には、発表440人だった18日の時点で推定4000人としている。
SARSのときと同様、またも隠蔽が進行しているのか——。その可能性も否定はできない。だが、公式数字の少なさには、むしろ今回の新型コロナウイルスの特性が影響している可能性がある。SARSほど症状が急進的ではなく、実際に発症しても風邪と勘違いして病院などにいかずに済ませたり、病院側も見逃したりしてしまうおそれが十分にあるからだ。