康外相の慰安婦合意の認識
気になるのは康外相の慰安婦合意の認識だ。
人事聴聞会では、「人権蹂躙においてもっとも核となるのは被害者中心の法的責任と賠償だがこの部分において合意は不十分だった」としながらも、「合意が存在しているのもひとつの現実。合意を守るべきことも国際社会の慣行」と話すなど曖昧な立場を見せた。
長官就任後の記者との懇談会では、「私たちの政策的協議と分析がなければならない。それをもとに日本と疎通・対話を持続すべきと考える」とし、慰安婦問題と他の案件は切り離して進めるツートラック戦略を主張するなど絞切り型な答えで、真意は読めない。
ただ、康外相は、人事聴聞会の席には元慰安婦ハルモニからもらったバッジをジャケットの襟につけて現れていて、先の記者懇談会では「人権専門家」という表現をたびたび使っていた。
前出記者の話。
「今の韓国は、米国とのTHAAD(高高度迎撃ミサイル)配置を巡る問題、中国との葛藤、北朝鮮の核問題と課題が山積みで、日本との慰安婦合意問題は優先順位ではこれらの次になる。文大統領が慰安婦合意の過程をまずは検証すると言っていたように、山積みとなっている課題をこなしながら、その間に慰安婦合意の検証を時間をかけて行っていくとみられていて、康外相もこれに沿った発言をしたと見られます。しかし、国内政治がどう動くかによって予想より早く慰安婦問題が浮上する可能性もある」
北朝鮮の核問題については、人事聴聞会では「韓米周辺国との協議がさらに切実で重要」とし、「核武装の道を放棄し対話の道に入れば安全と経済的発展などが保障されるという点をさまざまなチャネルを通して(北朝鮮に)伝えるべき」と答弁。また、北朝鮮住民との交流はすべきという立場を明らかにし、「ただ、方法においては国際社会の北朝鮮制裁というフレームがあるためこれを毀損しない範囲ですべき」と話した。
「人権専門家」としての立場
先の記者懇では、真っ先に北朝鮮問題に触れ、「人権専門家として、国際社会において韓国に対する期待を知っている私としては北朝鮮の人権と関連して2008年以降(国連総会で北朝鮮人権決議案に)賛成した基調を維持すべきと考える」とし、人権専門家の顔を覗かせた。「特に父親が以北道民(朝鮮戦争時、北朝鮮から韓国に来た人たち)であるため北朝鮮の人権には特に関心があるといわれています」(同前)。
しかし、北朝鮮については人権を語れば事は前に進まない。
文大統領は6月15日、南北会談17周年記念式典で、「北朝鮮が核とミサイルの追加挑発を中断すれば北朝鮮と条件なく対話に臨めることを明らかにする」と宣言。さらに、統一外交安保特別補佐官として渡米した文正仁・延世大学名誉特任教授が、「北朝鮮が核を凍結すれば朝鮮半島で行われている韓米合同軍事訓練と米軍の戦略兵器を縮小する用意もある」と爆弾発言をし、物議を醸した。
トランプ米大統領がTHAAD配置遅延に激怒しているという報道も流れる中、19日に北朝鮮に1年5カ月拘束されていた米国人大学生のオットー・ワームビア氏が死亡したことにも関連して、文大統領は米テレビ局などで自身の発言も含めた釈明に追われた。しかし、ここでも条件付きとしながらも「北朝鮮と対話する」という姿勢は崩していなかった。
外相就任後自ら「韓米首脳会談の準備が急務」と語ったように、康外相の外交デビューは数日後(29日)に迫った。
準備期間も短いながら、そのとり巻く環境はかなり厳しい。
そして、人権専門家を自負する康外相はこれから北朝鮮に宥和的な大統領府とどうすり合わせていくのだろうか。