2013年1月16日にアルジェリアのイナメナスで発生した痛ましい人質・テロ事件は、一年半経った今でも我々日本人の記憶に新しい。
この壮絶な事件から半年後の7月15日には、ケニア南東部のモンバサで、日本の建設会社社員が銃を持った強盗団に襲われて殺害される事件も発生。また8月には、エジプトで非常事態宣言が発令され、日本企業の多くが国外退避を余儀なくされた。
その後も、タイでの民衆暴動や軍事クーデター、ボストン・マラソンでの爆弾テロ、トルコにおける反政府デモ、スウェーデンにおける移民の暴動、ウクライナでの政変や一部地域での内戦、イラクでのイスラム過激派の躍進など、日本人の安全を脅かすような事態が世界中で発生している。
こうした時代にあって、海外に進出する日本企業や日本人の安全をどのように確保すべきなのだろうか? 欧米企業の事例を参考にしながら、在外邦人の守り方について考えていきたい。
欧米企業は「自分の身は自分で守る」が原則
先のイナメナス・テロ事件における英石油大手BP社の対応は、海外企業の安全対策について多くの示唆を与えてくれる。BPはテロに遭った天然ガス施設のオーナーで多くの英国人をこの施設に送っていたが、テロで殺害されたのは4名だけであった。
同社は自社のセキュリティ体制について一切明らかにしていないが、生き残った社員たちの証言から、同社が緊急時の避難マニュアルや避難シェルターを整備しており、社員がそれに従って迅速に隠れたため、被害が少なかったとされている。
筆者はかつて英国のセキュリティ会社に属していたが、同社では当時からBP社のような英国の石油会社の社員向けに赴任前セキュリティ訓練を実施していた。「危険地におけるセキュリティ意識向上訓練(HEAT)」と呼ばれるこの種の訓練では、銃弾の脅威から逃げる動作、爆弾テロの脅威やその対策、救命救急法や地雷原から離脱する方法、それに非常時の防衛運転訓練など、危険地でのサバイバルに最低限必要な知識と技術を身につけさせていた。