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 また欧米企業はアルジェリアで事業を行う際に、現場に「事業連絡調整官(OLC)」というセキュリティの専門家を配置するのが普通である。アルジェリアでは法律で欧米人は「セキュリティ」の仕事に就いてはいけないので、「セキュリティ・マネージャー」とは呼ばずにOLCという変わった名前を付けて、実質的なセキュリティ管理の仕事をさせている。

 こうした総合的な「備え」が、イナメナス・テロでの欧米人の被害軽減につながったと考えられている。

 現場にセキュリティの専門家を置いて避難計画や避難ルートを綿密に計画させ、社員たちには万が一の時を想定した訓練をさせる。今日本企業でも欧米企業を参考にしながらこうした取り組みが徐々に取り入れられ始めているが、そもそもこれだけセキュリティ対策に違いがあるのは、「最終的には自分の身は自分で守る」という意識の差があるからだと思われる。

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 欧米人は長い植民地の歴史から海外で襲われる経験をたくさんしているためか、「自力で何とかする」というマインドを強く持っている。「セキュリティ・マネージャーはダメ」と言われても、OLCと名前を変えてその代役をさせようとするのはそのためである。

 多くの日本企業は、現地の政府や治安機関から「大丈夫、我々の警察が守りますから」と言われると、「宜しくお願いします」と「安全対策」を簡単に他者(他国)に委ねてしまう。現地政府でなかったとしても、例えば現地にいるパートナー企業や提携会社が現地における安全対策を手配するという場合、日本企業はそのパートナーや提携会社に「お任せ」してしまうことが多い。いわば自分たちの安全を他者に簡単に「丸投げ」してしまうのである。

 欧米人は決してホスト国やパートナー企業に100%安全を委ねることをせず、法的に許される範囲内で「自分たちの安全対策を自分たちで構築し、維持・管理する」体制をつくろうとする。もしその国で、自分たち自身で物理的な警備をすることが許されていないのであれば、現地の治安機関が提供する警備を「管理もしくは監督する」ことだけは自分たちでやろうとする。

 もしくは治安情報の収集や分析だけでも自分たちでやり、自分たちが信頼できる情報に従い、自ら判断して行動できる体制をつくろうとする。また現地の治安機関の警備が機能しなくなるという最悪のケースを前提にして、自力で現場から退避・離脱する手段を考え、その計画を秘かに策定しておくものだ。

 筆者が欧米人たちとの付き合いの中で強く感じるのは、こうした用意周到さや「自助」へのこだわりの強さである。

 最近改善されてきたものの、少し前まで「万が一の時はなるようにしかならない」、「困るときは皆一緒なので他社の動向を見ながら決める」などと言ってまともな危機管理計画すら持たない日本企業が多かった。

 今でも日本企業の担当者と話していると、「外務省はあてにならない、情報を持っていない」とか「外国のセキュリティ会社は高いだけ」といった批判をよく耳にする。しかし、情報面で外務省をあてにすること自体が誤りだ。事業を行う地域や活動エリアにはそれぞれ固有の事情があり、そのようなローカル情勢を現地の大使館や領事館がすべてカバーできるはずがない。

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