文春オンライン

2020/01/31

相手チームの投手を誘って……試合後の独特の行動

 丹生高校には自慢できるスポットがある。正門前の急こう配の坂である。約200メートルの坂は、元気自慢の高校生も自転車を下りて、前傾姿勢で手押しするしかないようなタフさである。そこで、玉村は毎日のようにダッシュを繰り返してきた。坂の横には、ショートカットできる道もあるが、こちらも急こう配の階段である。これもまた、下半身強化のメニューになった。

 玉村には独特の行動があった。練習試合のダブルヘッダー(1日2試合)のことである。1試合目に投げ終えると、彼は、相手チームの投手を正門前の坂に誘って一緒にダッシュしたのである。練習試合とはいえ、勝負のあとの“呉越同舟”だ。

 しかし、好青年を絵にかいたような玉村は首を横に振る。「友達になれますし、コミュニケーションもとれます。いろんな考え方を聞けて、自分の幅も広がります。凄く良い時間でした」。

 かつては逆立ちのできない少年だった。反復練習の中で“やればできる”ことを知った。正門前の坂は強烈だったが、練習で歩くようなことはしなかった。「あそこで、あきらめないこと、粘り強くやること」を学んだ。少年時代の仲間と続けてきた野球で“エースの責任”を背負うようになった。

“置かれた場所”だからこそ咲く花がある。カープでも多くの先輩に声を掛けられ、笑いの輪の中心にいることだってある。柔らかい投球フォームは、早くも評価が高い。

 取材途中、先輩投手が我々の横を通った。玉村は咄嗟に頭を下げた。「お疲れ様です。よろしくお願いします。また、いろんなことを教えて下さい」。

「おう、いつか食事でもいこうや」。先輩投手の返答に、18歳は満面の笑みで応えた。どうやら、また、彼は良い場所に巡り合えたようである。

 ナチュラルに育った147キロ投手から、学ぶべきことは、少なくなさそうである。

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