アジアの市場調査を始めて十年近くになりますが、ここ五年ほど東南アジアの若者の調査を続けて痛感するのは、日本経済にとって東南アジア諸国がいかに重要で、特別なエリアかということです。

 グローバル経済と言いますが、人、モノが大きく動くからこそ、距離の問題は大きい。それには物質面、心理面の二つの側面があります。たとえば中国、韓国は物理的にはきわめて近いのですが、心理的にはそうではない。日本に限らず、どこでも隣接地域は歴史的にも複雑な感情を互いに持っているケースは多いのです。

 一方、東南アジアよりもさらに先のインド、西アジアはどうか。こちらは遠すぎて、日本の存在感はほとんどありません。文化の違いも大きい。ロシアも同様です。近年、中国との対抗上、インドとの交流がしきりに取り上げられていますが、ビジネス上の実感としてはほぼゼロ・ベースからのスタートと考えた方がいいでしょう。

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 それに対して、東南アジアは大きく異なります。まず、日本からの経済進出の歴史が長く、生産・消費の両面での蓄積がある。一例を挙げれば、東南アジア全体で、日本車は八割を超える圧倒的なシェアを誇っています。

 そして、中韓に比べて、日本に好意的です。その代表的な存在がタイです。製造業の生産拠点としても早くから注目され、数年前から、日産自動車がタイで生産した「マーチ」を日本へ逆輸入していることはよく知られています。外食産業でも、バンコクには日本にあるチェーン店のほとんどが進出しています。巣鴨のカレーうどん店「古奈屋」まで出店しました。

 またタイでは日本発の無料通信サービスLINEは二千七百万人もの利用者がいて、普通のおじさんまでが日常的に使っていますし、テレビをつければ日本の番組を放映している。タイ人が日本人を演じるドラマ「ライジング・サン」も大人気です。文化面を含めて日本を好意的に受け入れている。

 人口二億四千万人を超えるインドネシアで強いのは、化粧品メーカーの「マンダム」。その成功のカギは小分けパックによる販売でした。東南アジアでは、まだまだ所得が低く、タバコも一本ずつのバラ売りがあるほどです。これにヒントを得て、男性化粧品だけでなく女性化粧品も小分けパックにしたところ、インドネシアの津々浦々、離島にまで浸透したのです。健康飲料の「ヤクルト」も、インドネシアでよく売れています。ここでは戸別に訪問販売する「ヤクルトレディ」方式がはまりました。マレー系の大家族制が残っている現地では、人々が互いの家で延々雑談を交わすのが日常的な風景です。そこで、ヤクルトを配りながら、長々と世間話をする。私が調査に行ったときも、ヤクルトおばさんが入ってきて、そのまま仲良さそうに話していました。

 東南アジアには約六億人の市場があります。しかもこれから経済発展を遂げていく成長市場です。これからの日本経済の救世主になる可能性は大きいと思います。

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