広告力と韓流文化
そこで気になるのは、中韓の存在です。東南アジアでも、彼らが手強(てごわ)いライバルであることは変わりません。「世界の工場」中国は、東南アジアに下請け工場をどんどん作っていますし、「華僑」と呼ばれる中国系の人々を抜きに東南アジアの経済は成り立ちません。
インドネシアの人口における中国系の割合はわずか三%に過ぎませんが、経済を牛耳り、富を独占しています。ジャカルタでは大型ショッピングモールがひしめき合い、ある種の乱立状態にありますが、中国系に富裕層が多いので、高級品を扱うモールでは、中国系をターゲットにした外観、内装のところが目につきます。
一方、民間の広告力と、挙国一致のソフトパワー戦略で、東南アジアの若者層を取り込んでいるのが韓国です。韓国企業の特徴は、売り上げに占める広告費の割合がきわめて高いことです。その代表が、サムスン電子でしょう。
また東南アジアのどこの国でも、テレビをつければ、韓流ドラマや映画が放送され、ミュージシャンが歌い、踊っています。東南アジア諸国の平均年齢は二十代と若い。そうした年齢層にとって、韓流文化のアピールはきわめて大きい。それはファッションやスマホ、家電やバイク、車などの消費にも大きな影響を与えます。韓流スターがドラマで使っていたサムスンのスマホが欲しい、というわけです。化粧品でも、多くの東南アジア諸国では、韓国コスメが席巻しています。チャン・グンソクなど人気俳優をパネルなどにしてショッピングモールのコスメ売場に置くだけで、若者が殺到する。ソフトパワーとの相乗効果なのです。
日本でも、NHKがドラマなどを東南アジア諸国に無償提供したり、民放連がベトナムに番組を無償提供するなどしていますが、まだ始まったばかり。韓国と比べると随分出遅れてしまっています。
さらには、東南アジア諸国のどの都市に行っても、日本人よりも韓国人の方が圧倒的に多い。韓国は自国のマーケットが小さいため、地元で恵まれた就職が出来なかった若者が、だったら外で成功しようと、どんどん東南アジアに出てくるのです。
東南アジア諸国で、日本が好意的に受け入れられているのは事実ですが、それはかなり漠然としたイメージでもあります。私がタイで行った調査では、「名前を知っている日本人は」という問いに、なかなか答えが返ってきませんでした。その程度の認識しかないのが現実なのです。