名前すら名乗らない完全黙秘
続く9日のレクでは集まった記者クラブの記者に対し、「男女は依然として完全黙秘。ちょっとした雑談には応じている。名前すら名乗らない被疑者はまれ。送検するときは顔写真を付けることになるだろう」ということと「マンションの部屋は、ある程度きれいに整理されている。雑然という感じではない。押収した衣類は下着も含めてあるが、所有者の特定はできていない」との話が出た。
この日の午後、松永と緒方は福岡地検小倉支部に送検されたが、松永はスーツの上に捜査員から白いジャンパーをかけてもらった際に「すいません」と口にし、顔を隠していた。一方で緒方は、テレビカメラの放列を前に、警察官から「顔を隠さなくてもいいのか?」と聞かれたが、「いいです」と答えて顔を隠すことはなかった。そのため、当日夜のテレビニュースでは緒方の顔が出たが、松永の顔、さらに2人の名前は明らかになっていない。
「一度も笑った顔を見たことがない」
3月9日の夕刻、私は片野マンションの1階にあるスナックを訪ねた。30代後半に見えるマスターがカウンターのなかで言う。
「女の子(清美さん)を見たんは去年の夏が最後やねえ。夕方頃に近所をウロウロしよるんを見たことがあるっちゃ。背はかなり小さめで、身長は150(センチ)ないくらいかね。痩せとって、服とかも最近のギャルとかとは全然違う、地味な格好やったね。暗い感じやけ、一度も笑った顔を見たことないんよね。なんかいつも俯いとる感じやったんよ」
「捕まった男女はどんな様子でしたか?」
「どんなって、女の方は普通のおばさんっちゅう感じよ。身長は150ちょっとで中肉中背。地味な格好で、髪の毛とかは肩につかんくらいの長さで普通やし……。男の方は髪が短めで、身長は170より少し低いくらい。中肉中背でトレーナーとかの格好が多かったね。なんの商売をやっとるかわからん雰囲気があったけど、見た目はサラリーマン風。警察が確認のために持ってきた写真はスーツ姿で七三分けの髪型の写真やったよ」
「あんまり喋らん子なんよ」
マスターは話を続ける。
「うちの店のママが平成11年(1999年)にこの地域の組長になった時、30×号室の世帯表を見たらしいんやけど、そこには橋田由美と橋田清美っち名前が書かれとったみたいよ。由美のほうがおばさんで、昭和35年生まれ。清美のほうが女の子で、たしか昭和59年生まれやったと思う」
「その2人だけ?」
「そう。その頃に女の子が町内会費を持ってきたことがあったんよ。普通は1年分でいいのに、3年分をまとめてね。で、その子にだれと住んどるのか聞いたら、『おばさんと住んでます』っち。で、『2人で?』と聞いたら、『そうです』やら言いよったけね。ほんと、あんまり喋らん子なんよ。『なんか飲む?』って聞いても『いや、いいです』って言うしね」
「なにか他に容疑者や少女について憶えてることはないですか?」
「そうやねえ、おばさんの方はけっこういつもサングラスをかけとったよ。で、2階にある郵便受けを毎日チェックしよるんよ。そんなときにだれかが来ると背中を向けて、通り過ぎるまでは動かんのよね。やけ、あんまり顔を見た人は多くないと思うね」