1品目はリブかロースか、それが問題だった
「既成概念にとらわれず、前提のないところから新しいとんかつ、新しいとんかつ屋を作っていきたかった」と眞杉さん。オープン前にはテストキッチンで二年近くかけて、何ができるかを試し続けていたそうだ。料理長の新垣さんは、とんかつだらけのコースにトマトのコンポートを加えることで清涼感を添えるなど、フレンチ出身ならではのアイデアと腕でその新しさを共に演出している。
食べる順番にしても、たとえば脂でガツンとくるリブロースのあとにロースを出せばロースがあっさりと感じられるし、だったら逆のほうがいいんじゃないか、いやいや最初にリブがあるからいいんだ、といろいろ考えてのこの順番なのだそうだ。食べる順を変えれば味わいも変わる。言われてみればその通りなのだけど、やはりこれも食べ比べることではじめてできる新しさだ。
そしてその新しさはとんかつに対してだけでなく、とんかつを介した、食べている人同士の会話も変えていく。三浦さんは冗談めかして、この店のコースを食べれば「しきんぼのとんかつはこういうものなんだぜ」とちょっとしたとんかつ蘊蓄を語れるようになるよ、とおっしゃっていた。
「ひなた」の新しさとは何か
昔に比べて豚そのものがおいしくなっているし、生産者と小売・消費者がダイレクトにつながれる時代だからこそ、これだけの新しさを提供することができるのだろう。とんかつには、まだこれだけ進化の余地があったのかと驚くばかりだ。今度行くときは、どんなとんかつが食べられるのだろう。どんなとんかつ屋になっているのだろう。
変わらない味ではなく、いつまでも新しくあり続けるとんかつも、なかなかいいものだ。
写真=かつとんたろう