高田馬場に新しいとんかつ屋ができたらしいぞ、と少し前からとんかつマニアの間で話題になっていた。駅を出てから早稲田通りを少し歩いたところにある「とんかつ ひなた」だ。とん太・成蔵など有名店がひしめくこの地に2017年の1月にオープン、その直後から行列のできる人気店となっている。
しかしこの「新しい」ということに関して、少々勘違いしていたようだ。これは単に新しく店ができた、という意味だけでなく、今までにないとんかつ屋を提示してくれる、という意味でもあったのだ。
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15時以降にならないとありつけないコース
今回、オーナーである三浦哲也さん、プロデューサーの眞杉大介さん、板長の新垣定哲さんにお話を伺いながら食べたのは「食べ比べ(全部位)コース」。リブロース、ロース、ひれ、しきんぼ、らんぷ、とんとろをそれぞれ少しずついただける、なんとも贅沢なメニューだ。どの部位がどうおいしいのか実際に食べ比べてみようというこのコース、これで自分の好みを見つけてから、次に来るときにその部位のとんかつで定食を頼む方もけっこういらっしゃるとのこと。さらにシメにはかつ丼、チャーシュースープ(もしくは豚汁)も出てくるので、全部食べると相当なボリュームだ。
三浦さん、眞杉さんによれば、ひなたでは生産者から豚を一頭買いしており、おかげでロースやヒレのほかの部位でもとんかつにしてみよう、という試みができたのだそう。
「しかしこのコースをメニューに載せたのは、実はお店ができてすこし経ってからなんですよ。最初は昼のみの営業でメニューは普通の定食だけだったのですが、夜に行っていた招待制のレセプションで出したこのコースがとても評判がよく、それならメニューに加えてみよう、となったんです」(三浦さん)
コースは15時以降のみの提供、予約は二人からなのだが、今では多いときには半分以上の方がこの食べ比べを頼むほどの人気だ。
たどり着いた「漢方豚」
眞杉さんは、全国を仕事で巡りながらなんと年に200軒、1日で4軒5軒もとんかつを食べ歩いたこともあるほどの、無類のとんかつ好き。とんかつ屋をやろうと言い出したのも、もちろん眞杉さんだ。そのこだわりは豚そのものへも向いており、たどり着いたのがこの店で出している「漢方豚」なのだ。
ちなみに肉の下ごしらえは筋を切るための包丁を少し入れている程度で、叩いてもいなければ下味をつけてもいない。それなのに臭みも全くと言っていいほど感じられず、肉本来の食感、味だけで十分おいしく食べられる豚なのだ。
また店の内装にもこだわりが見える。例えば道の角に面していることを生かしての、窓を大きく採ったとても明るく見渡しのいい店内は、とんかつ屋ではあまりない雰囲気だ。
「カウンターのみであることにも大きな意味があるんです。ひなたのとんかつはまさに『F1』だからです(笑)」(三浦さん)。
断面のうっすらとしたピンクが消え、浮いていた肉汁が引いてしまうまでわずか十数秒。おいしさが、まさに一秒を争う「F1」のようであるからこそ、調理してすぐに出せるカウンターであることが何より重要なのだ。