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3.日中間の政治状況の変化

 そもそも、2011年に「成功」したSMAPの北京ライブの性質も考えなくてはいけない。このライブは、翌年に日中国交正常化40周年を控えた両国が友好ムードを演出するために実施した外交的なセレモニーの一環であり、ライブ前には中国元国務委員の唐家センがメンバーを人民大会堂に呼んで会見するなど、かなりの政治的な意味合いを持っていた。

 ややきつい指摘をすれば、SMAPは中国側での人気はさておき、日本国内におけるパブリック・イメージが良好で芸能事務所の力も強いグループなので、日本の芸能・広告業界が外務省のお役人にプレゼンしやすい対象だった。ゆえに彼らは政府の日中友好外交政策に組み込まれて北京に行った――。これが日本側の事情なのだ。

 いっぽう、2011年当時の中国の指導者・胡錦濤は、日中友好に積極的だった彼の師匠格の胡耀邦とその派閥(共青団派)の影響もあり、基本的には日本に融和的な政治家だった。日本側ではあまり実感がなかったが、特に北京五輪があった2008年前後には中国国内の対日感情がかなり良好だった事実もある。2010年の尖閣諸島沖漁船衝突問題で日中関係は一時冷却化していたが、SMAPの北京ライブはこの緊張を解くための、対日融和ムードを示すイベントのひとつとして位置づけられていた。

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©getty

 SMAPの北京ライブの「成功」は、日本側の広告会社や芸能事務所のパワーと、当時の中国側の指導部の意向を反映してもたらされたものだ。一般の中国人の支持とはほぼ無関係であり、中国国内の市場原理を純粋に反映した結果でもなかったのである。

 現在は習近平の時代となって久しい。中国の対日姿勢は基本的に厳しく、今後も習近平が権力を行使し続ける限り、胡錦濤時代までのような理想主義的で甘ったるい対日友好ムードが盛り上がる可能性はゼロに近い。政治状況が大きく変わった以上、SMAP元メンバーの3人がいまさら中国に行ったところで、往年のような当局からの優しいバックアップを期待しても望み薄であろう。言うまでもなく、中国において庶民層の人気がイマイチな有名人は、政治的に特別な引き立てでも受けない限りは決して成功できない。

 ……とまあ、第二の芸能人生のスタートを図る元メンバーたちには、ちょっと気の毒な話を並べてしまった。逆境を打ち破って新天地を切り開いてほしいと言いたいところだが、やはり元SMAPの3人は明らかに無理のある中国進出でわざわざ土をつけるより、従来の知名度を活かして日本での活動に専念したほうがより無難とも思える。日本の国民的アイドルグループは、良くも悪くもドメスティックな環境でこそ輝く人たちのはずなのだ。