これからの官僚はどんな存在であるべきか?
――役人、官僚のフレームワークから出てみる、と。そこで改めて、現在のみなさんが考える官僚のあり方をお聞かせいただけますか?
須賀 実はこのペーパー、超党派の議員の方から反響をいただいていて、各党に呼んでいただいているんです。ふだんはご説明に行く立場ですが、これに関しては同志というか、問題意識を共有できている実感があります。政治が議論すべき内容だったのかもしれないですね。霞ヶ関はリソースが豊富なので、目の前の政策をやるだけではなく、政策の世界の公共財というか、みんなの議論の土台になるようなものを提供する役割も、果たしてもいいのではないかと思うようになりました。メディアの取材も非常にたくさんいただくのですが、報道するだけではなくて、批判も共感も持って自分ごととして関わろうとしてくださるのが、これまでにない経験でした。一緒にやろうよ、と言われている気がするんですよね。
高木 そういう意味ではまだ中途半端かなと思っているのは、すでにご指摘もいただいているところですが具体策を示していないことです。お金にしても制度にしても、どのように実現するかを具体的に示すことが官僚の仕事だと思うんですよね。
一方で、具体策だけではなく、今回みたいにわかりやすい言葉で全体の構図を描いて提示することも、この場所にいる人間の責務なのかなと思っています。インナーですべて決めるのではなく、丁寧に発信して議論を広げていく。その意味でも今回のペーパーはまだまだ改善できるところがあるかなとは思っています。
分業しすぎた世の中をシャッフルする取り組み
上田 この資料に対する反響と、普段の仕事に対する反響の大きさが全然違うわけです。実はこれくらい幅広く勉強してないと、世の中のためになる仕事はできないんじゃないかと思うようになりました。外部の方からの意見交換や取材の依頼も多くて、これまでより距離が少し縮まったのかも知れないし、少し共感してもらっているような気もします。
須賀 「分業しすぎた世の中をシャッフルする取り組みですね」って言ってくださった方がいらして、そういうことかもしれないと思いました。役割論を越えた仕事をしなくてはいけないのかもしれないと思い始めています。
上田 それは官僚の仕事なのかと問われると、どうなんだろうとも思うのですが、こうした取組を求められるようになるのかもしれない。
今村 国民全員のためになることは、絶対に国がやるべきなのかというと、全てがそうではないような気もしていて。その線引きはもっと柔軟でもいいのかな、と思ったりします。これは官僚像というよりは行政のあり方の問題かもしれませんが。
須賀 このペーパーが、予想をはるかに超える多くの反応をいただいたおかげで、同世代を含めた多くの方々と、私たち官僚と呼ばれる者たちとの対話のチャンネルが生まれたと思うんです。さっき上田くんも言っていたように「世の中のいろいろな人を巻き込みながら、問題意識を共有できる仲間を増やしていきたい」。その試みの始まりが、このプロジェクトなんだと感じています。
写真=佐藤亘/文藝春秋