文春オンライン

ヒトより仲睦まじい? かわいい甲殻類No.1のエビが棲む「愛の巣」とは――底生生物のお家事情

謎に包まれた“底生生物”を「巣穴」で明らかに

2020/02/06
note

生き延びるために“適応”する居候たち

 さらにこのヤハズアナエビの巣穴、入り口が一つしかないのがその特徴となっています。

 アナジャコの巣穴のように、入り口が二つあれば海中から酸素を含んだ新鮮な海水が取り込まれ、水を効率的に循環させることができます。しかし巣穴の入り口が一つでは、そうはいきません。

 先述したとおり、ヤハズアナエビの巣穴の奥には有機物である海草の破片が大量に貯蔵されています。そして有機物が分解されるときには、水中の酸素が消費されます。その結果、ヤハズアナエビの巣穴の奥は貧酸素状態、つまり呼吸に必要な酸素が常に不足していると考えられています。

ADVERTISEMENT

©iStock.com

 つまりそれは、共生生物たちがヤハズアナエビの巣穴に棲み着くためには、貧酸素状態を克服しなければならないことを意味します。さぞ“息苦しい”環境なのではないでしょうか。

 そのため、たとえば共生生物の一つであるアケボノガイは血液中にヘモグロビンを有しており、これによりヤハズアナエビの巣穴における貧酸素環境に適応していると考えられています。

 人の家に居候するのもそれなりの気づかいが必要ですが、他の生物の巣穴に居候するのはそれ以上に大変なんですね。

清家弘治
1981年生まれ。広島県出身。産業技術総合研究所地質調査総合センター主任研究員。文部科学省平成29年度卓越研究員。潜水士。専門は海底生物学、海洋地質学。2004年愛媛大学理学部生物地球圏科学科卒業、09年東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻修了。博士(理学)。日本学術振興会特別研究員PD、東京大学大気海洋研究所助教などを経て現職。受賞歴に科学技術分野の文部科学大臣表彰・若手科学者賞など。

ヒトより仲睦まじい? かわいい甲殻類No.1のエビが棲む「愛の巣」とは――底生生物のお家事情

X(旧Twitter)をフォローして最新記事をいち早く読もう

文春オンラインをフォロー