日は当たっていないけど、すごい人物

―― 佐々木さんの著書についてなんですけれども、『ケンボー先生~』を元にした『辞書になった男』でも、この度の新刊『Mr.トルネード』にしても、ただ番組をそのまま書籍化したのではなく、本は本で、独自の作品として成立している感じがします。

佐々木 そう受け取ってもらえるとすごく嬉しいです。僕は、番組は番組で1つの作品だと思っていて、本は本で全く別個の作品だと思っています。まず、番組の場合は、100万人単位の人に伝えなきゃいけないので、「分かりやすく」というのが大前提。あまり細々した内容まで伝えられないという制約がある。でも、本は違う。本を初めて書いた時、「取材した成果をこんなに入れられるのか!」と驚いたんです。テレビではたくさん取材して、その氷山の一角がオンエアされるのが当たり前という感覚だった。だから、残りの取材成果は全部捨てていた。でも、本の場合は限りなく情報を入れられるし、形として残せる。番組だと放送された瞬間は話題になりますけど、本は長い時間をかけてジワジワ手に取ってもらえる。『辞書になった男』もいまだに買ってもらえたりして、それが本当にありがたいです。

©山元茂樹/文藝春秋

―― 佐々木さんは、藤田哲也博士も、見坊先生も山田先生もそうですし、満屋裕明医師もそうですけれども、日の当たらない人を発掘しては作品にしている感じがします。

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佐々木 おこがましい言い方になりますが、やっぱりどこか自分に重ねているところがあるんでしょうかね。割と主流じゃない、日陰の道を歩いてきたところとか……。よく勘違いされるんですけど、僕はNHKの人間じゃないんですよ。取材に行くと「NHKさんが来た」みたいに言われたり、取材で仲良くなっても「NHKの佐々木さん」と言われちゃうんです。しょうがないんですけど、でも妙にそういうところに引っかかったりするんです。「俺はNHKの局員じゃない、NHKエデュケーショナルのプロパー社員だ」ということへの誇りとか拘りみたいなものがあるんです。

―― これからも追いかけ続けるテーマは「日は当たっていないけど、すごい人物」になるんでしょうか?

佐々木 そうですね、そういう人こそテレビで放送する意味があると思うんです。藤田博士の番組『Mr.トルネード』だって、視聴率は3%程度の泣きたくなるような数字だったんですけど、それでも約300万人が見てくださったことになる。300万人の人が一気に、藤田哲也の存在を知るというのは、すごいことだと思うんです。だから僕は、世間にあまり知られていないけど知られるべき人物こそテレビで取り上げるべきだと思っています。もちろん知らない人だから視聴者の食いつきは悪い。でもそこは演出力や構成力でカバーする。ドキュメンタリー番組が苦手な人にも見てもらえるように、魅力的に見せたり、CGを入れて工夫したり、リズムやテンポよく描いたり、というようにしてやっていきたい。

―― 次回作はどんなものになるんでしょうか?

佐々木 誰かは内緒ですが、いま取材中です。この方も多くの人に知ってほしい、知られざるすごい日本人です。ご期待いただければと思います。

Mr.トルネード 藤田哲也 世界の空を救った男

佐々木 健一(著)

文藝春秋
2017年6月19日 発売

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辞書になった男 ケンボー先生と山田先生 (文春文庫)

佐々木 健一(著)

文藝春秋
2016年8月4日 発売

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ささき・けんいち/1977年、札幌市生まれ。早稲田大学卒業後、NHKエデュケーショナル入社。『哲子の部屋』『ケンボー先生と山田先生~辞書に人生を捧げた二人の男~』『Dr.MITSUYA 世界初のエイズ治療薬を発見した男』『Mr.トルネード~気象学で世界を救った男~』『えん罪弁護士』など様々なテーマでの番組を手がけている。
著書に『ケンボー先生と山田先生~辞書に人生を捧げた二人の男~』を元に執筆した『辞書になった男』(文藝春秋・日本エッセイスト・クラブ賞受賞)、『神は背番号に宿る』。新刊に『Mr.トルネード 藤田哲也 世界の空を救った男』。
現在「日経トレンディネット」でコラム「TVクリエイターのミカタ!」を連載中。