佐々木健一という異色のドキュメンタリストをご存じだろうか?

 前編に続くインタビュー後編は、自ら“ベッキードキュメント”と語る異色の番組『ヒューマン・コード』の制作時のお話から、マキタスポーツ、清水富美加が出演したEテレの哲学バラエティ『哲子の部屋』の裏話、そして「今までで一番不安な番組取材でした」と振り返るドキュメンタリー『Mr.トルネード』に舞い降りた奇跡についてを語っていただいた。

「言葉」「哲学」「医学」「気象学」「司法」……あらゆる分野をテーマに番組を作り続ける人物が考える「ドキュメンタリー」とは何か。そして、“異端”と呼ばれる佐々木健一とは一体、何者なのか?

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佐々木健一さん 1977年生まれ ©山元茂樹/文藝春秋

ある意味、ガチの“ベッキードキュメント”

―― フジテレビで放送された特番『ヒューマン・コード~想定外のワタシと出会うための3つの暗号~』が、ご自身のターニングポイントだそうですが?

佐々木 『ヒューマン・コード』は、フジテレビとNHKエデュケーショナルが組んで作った番組なんですが、本当の意味で、企画から演出までプロデューサーの意見をあまり気にせず、自分の創造性で作った番組でした。「これでダメだったらもういいや」というぐらい腹をくくって作りました。ベッキーさんに認知心理学や行動経済学を元にした様々なクイズに答えてもらいながら、「人間とは何か?」という根源的な問いが浮かび上がってくる内容です。クイズそのものを楽しむというより、ベッキーさんがクイズに臨む姿をありのまま捉える演出にしました。

『ヒューマンコード』より ©フジテレビ/NHKエデュケーショナル

―― ベッキーさんが番組の意図を汲む勘のよさを発揮してましたね。

佐々木 そうですね。あれこそ“ドキュメンタリー”だと思うんです。ベッキーさんと収録前に打ち合わせをした時に、「まず、何も無い真っ白な一風変わったスタジオがあります」と説明して、何をやるかは一切教えない。「そこにご案内します、あとは身を任せてください」とだけ伝えたんです。ある意味、ガチの“ベッキードキュメント”です。ガチンコだから起こる化学反応が面白かったですね。バラエティ番組を作っていると、タレントさんの能力の高さを感じます。『哲子の部屋』で言うと、最近、千眼美子に改名した清水富美加さんのバラエティの才能も本当に素晴らしかった。

哲学ではなく、國分功一郎さんへの興味があった

―― 『哲子の部屋』で「哲学」をテーマにしようとしたのはなぜですか? 

佐々木 哲学に興味があったわけではなくて、これも元々は「人」への興味でした。哲学者の國分(功一郎)さんがTBSラジオで話しているのを聞いたのがきっかけです。『小島慶子 キラ☆キラ』で、小島さんがいつも「イケメン哲学者」と言っていたのが気になって(笑)。

『哲子の部屋』は佐々木さんの構成で3冊の本にもなっている

―― 哲学の番組って、どうしても固くなりそうなところを、バラエティに落とし込んでいましたよね?

佐々木 これまでもいくつか哲学の番組ってあったと思うんですが、大概「知的なことをやってます」というムードがあったと思うんです。そういう風には絶対したくなかった。だから、映画『ファイト・クラブ』を教材に「消費」を哲学するとか、映画『変態仮面』で「アイデンティティー」を哲学する、という内容にしたんです。