7月4日、北朝鮮が大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射に成功したと発表し、同日、米国も発射されたミサイルがICBMだと認めた。
文在寅大統領が就任後初の訪米から帰国してわずか2日後。
初の米韓首脳会談は、「韓半島(朝鮮半島)の平和の運転席に座ることを認められた点で大きな成功」(与党の『共に民主党』)、「韓米同盟の確認はできたが、中身がない」(野党)と評価は分かれたが、ほとんどのメディアは無難に終わったと報じ、韓国では及第点を得たような雰囲気だった。しかし、完全に水を差された格好となった。
米韓の目下最大の懸案事項は、この北朝鮮のミサイルを迎撃するとされるTHAAD(高高度防衛ミサイル)配備についてだ。
前政権の負の遺産
先の米韓首脳会談では、韓国が事前に青瓦台の国家安保室長を米国に送り根回ししていたため、議題から外された。大統領選挙の時は「配備再検討」としていた文大統領自身も「THAAD配置を覆す懐疑心は捨てていい」と米国で話し、配備を強調したが、実は韓国内ではTHAAD配備を巡る火種はくすぶったままだ。
そもそも文政権は、THAAD配備を巡る論争は朴槿恵前政権の負の遺産としている。
韓国の全国紙記者が言う。
「昨年の春頃には配備する場所の下見が終わったと伝えられ、候補地に挙がった住民は戦々恐々としていました。だが、朴前政権はなかなか場所を明かさなかった。そのうちに特定の候補地が挙がって大騒ぎになりましたが、結局近くに居住地があるという理由から見送られました。騒ぎがいったん収まったかに見えたその直後、電撃的に伝えられた配備地が、今の慶尚北道・亀尾市近くの星州郡です。星州郡には事前になんの説明もなかったといわれ、前政権の怠慢さが問題になりました。この時からTHAAD配備を巡る論争に火がついて、今や全国区になってしまった」
「人間の鎖」デモ
文大統領の訪米直前と米韓会談のさなかにも、THAAD配備に反対するデモがソウルの駐韓米国大使館周辺で大々的に行われていた。
「米国THAADは米国へ」
文大統領が訪米を4日後に控えた6月24日、およそ3000人(主催者発表)がスローガンを叫びながら、通称「人間の鎖」で、駐韓米国大使館をとり囲んだ。
主催したのは全国民主労働組合総連盟(民主労総)をはじめ90もの団体から成る「THAAD韓国配備阻止全国行動」。民主労総は、文大統領の最大の支持グループだ。
デモに参加していた主婦(40代)は、配備が予定されている星州郡からではなく、非武装地帯のある坡州市から来たという。
「THAAD配備問題は星州だけでなく、韓国全体の問題なのです」
と言い、THAAD配備に反対する理由を訊くと、強い口調で次の2つをあげた。
「THAADのレーダーが動く時に出る電磁波は人体に悪影響を及ぼすといいます。それに、表向きは北朝鮮のミサイルや核を迎撃すると言っていますが、それほど効果はないというし、THAADのミサイル迎撃システムのXバンドレーダー(THAADのミサイル迎撃システム)は、実は中国を監視するためのものだといわれています。そんな米中間の争いに韓半島が巻き込まれることは、もうあってはならないんです」
デモ当日の様子は韓国国内のさまざまなメディアが報じた。
国際条約を脅かした
後日、駐韓米国大使館は、デモは在外公館の安全を守るウイーン条約を脅かしたとして、韓国の外交部(外務省)に抗議したと伝えられた。
駐韓米国大使館は、ソウル都心の光化門広場に面していて、隣には大韓民国歴史博物館が建ち、消防署も近くにあるため道路上でのデモは無理がある。デモは当局の事前許可を得ていればもちろん自由だが、こんな環境の場所で、しかも、大統領の訪米を控えた時期によくデモを許可したなあと不思議に思って聞いてみると、「当初、警察は許可しなかった」と管轄の警察署関係者は嘆息交じりだった。
「不許可になった後、デモ主催者がソウル行政裁判所にデモを許可しないのは違法だと訴えて、それが認められたのです。ただし、平和的で20分以内という制限つきでしたがね」