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世論が「特例」を作る

 韓国の「ウイーン条約違反」といえば、駐韓日本大使館前に設置された慰安婦像問題も然りだ。

 日本政府はウイーン条約違反だと抗議したものの、韓国政府は、「違反の素地はあるが民間が設置したものを勝手に撤去することは難しい」といまだに解決を見ない。さらには、駐韓日本大使館のある鍾路区は像を撤去できないよう公共造形物として認定する条例を可決していて、釜山の日本総領事館前の慰安婦像についても釜山市議会が条例を作って“守る”という。国際的な取り決めがあっても、世論に押される形で区や市のレベルで特例を作ってしまう。

 THAAD配備についても、こうしたまさかの展開が起きないとは限らない。

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THAAD配備に猛反発する中国

 そして、THAAD配備を巡り韓国で憂慮されているのが中国との関係だ。

 中国はTHAAD配備に猛反発し、3月には「禁韓令」を出して韓国行きの観光客を全面的に中止したり、韓流スターを中国で活動させないなどの報復措置をしたのは周知の通り。また、ロッテは自社のゴルフ場をTHAAD配備予定地として提供したため中国市場で苦戦を強いられていて、中国に進出しているロッテマート(大型スーパー)99店舗のうち74店舗が何らかの理由で強制的に営業停止措置を受けて、すでに約4500億ウォン(約441億円)の損失を出している。

 ただ、韓国の世論は、今のところTHAAD配備賛成が53%と、32%の反対を上回っている(韓国ギャラップ、6月16日)。

 文政権は、THAAD配備延期や撤回は意味しないと前置きしながらも、いったん環境に及ぼす調査を行うとしていて、これは早くても1年はかかると見られている。

トランプ大統領との蜜月をアピールする文大統領 ©getty

北朝鮮は米国しか見ていない

 こうした入り組んだ状況の中、さらに、北朝鮮のICBMの成功は、THAAD配備に新しい局面をもたらした。

 韓国の別の記者が言う。

「ようやく韓国が韓半島の平和の運転席に座ったのにエンジンもかけられずに、ICBMというどうしようもないハードルにぶつかってしまった。文大統領の対話重視の対北朝鮮政策は根本から見直す必要がある」

 北朝鮮がICBM発射成功と高らかに謳い上げた当日の朝、韓国の全国紙『中央日報』には、「北韓(北朝鮮)、多弾頭ICBM開発中‥‥事実ならTHAADで迎撃は難しい」という記事がタイミングよく掲載された。記事は韓国政府の当局者の話を引き、「いくつもの弾頭がひとつの目標物を一度に攻撃するなら米国の迎撃ミサイルがこの弾頭をすべて撃墜するのは難しい」という専門家の言葉を載せた。

北朝鮮のICBM発射を伝えるニュース ©getty

 北朝鮮専門家は言う。

「北朝鮮はひたすら米国だけを見ていて、韓国との対話には実はまったく関心がない」

 北朝鮮のICBMの発射を受けて、さすがの文大統領も米韓でのミサイル発射威嚇を承認し、中ロは共同で北朝鮮に「核・ミサイル開発の停止」を求めながらも、「米韓が軍事演習を中止する必要がある」(時事通信)という談話を出した。

 一寸先は闇とはこのことだろう。G20では、どんな議論がされるのか。文大統領の四方をトラとオオカミが囲んでいる。