「中間層が没落しやすい」世界の労働市場
『家族を想うとき』という映画でも中間層の没落を描いており、英国で配達ドライバーと訪問介護に従事している夫婦が過酷な労働条件のために、働けば働くほど貧しくなってしまうというストーリーでした。
現在の世界の労働市場はITや金融など非常に高付加価値の知的労働か清掃などの超単純労働に二極化する傾向があります。事務職などはAIに取って代わられやすいですが、清掃の仕事などを全てIT化するには非常にコストがかかるので人員が必要なのです。そのため、職を奪われた中間層が没落しやすくなっています。
ジニ係数という社会の所得の不平等さを測る指標があります。ジニ係数の値は0から1の間をとり、係数が0に近づくほど所得格差が小さく、1に近づくほど所得格差が拡大していることを示します。一般に0.5を超えると所得格差がかなり高い状態となり是正が必要となると言われています。
OECDのデータ(2019)によると、格差が高い国に6位アメリカ(0.390)、9位韓国(0.355)、11位イスラエル(0.344)、13位日本(0.339)、23位スイス(0.296)、25位フランス(0.291)、34位デンマーク(0.261)などが挙げられ、先ほどの生活費ランキング上位の国の中の多くも上位にあります。また、デモがあった香港では0.473(2016年)、シンガポールは0.356(2017年)となっています。
https://data.oecd.org/inequality/income-inequality.htm
日本よりもずっと競争が激しいという韓国では、海外に留学をしてグローバル企業に就職したり、投資家向けに英語でプレゼンをして資金調達や支援を受けたりと必死さを感じます。
例えば、韓国は欧米大学への留学生数で、中国、インド、サウジアラビアに次いで4位にランクインしています。海外のインター校も韓国人に人気です。
https://www.businessinsider.com/countries-send-most-students-american-colleges-2017-2
シンガポールにアジア本部を置く一般消費財メーカー・P&
『パラサイト 半地下の家族』に描かれた敗者になることへの恐怖心がより大きく、外国語の習得などあらゆる努力をして、競争社会で上り詰めようとする野心が強いのでしょう。
経済危機や天災で富裕層はより金持ちになっている現実
映画『パラサイト 半地下の家族』に話を戻すと、大雨で半地下のアパートが下水で浸水をするシーンがあります。このように、経済危機、天災などがあると、貧困層は大きなダメージを受けます。
これに対して、富裕層は経済危機や天災が来ても磐石です。リーマン・ショックの際にも多くの富裕層の資産は一般の人の資産と比べると大きく痛んでいません。それどころか安くなっている時に不動産などの資産を仕込んで、景気回復時にそれらの価値が上がって、よりお金持ちになっているのです。というのも、富裕層はファミリーオフィスやプライベートバンクなど金融のプロフェショナルを雇っているからです。
現在も新型コロナウィルスの影響から観光産業や飲食など幅広い業界で経済的なダメージは大きいです。経済がうまく回っている時は多くの人が富を得ることができますが、危機が起きると元手がない人は壊滅的なダメージを受けることになります。
元手があれば当面の運転資金や運用益でやりくりをできますが、働かなければならない層は経済危機になると職を探すことが非常に困難になります。
日本映画『万引き家族』でも生活苦から万引きを重ねたり、同居をしている老人が亡くなっても死亡届を出さずに年金を不正に引き出したりするシーンが描かれています。
世界中の多くの政府が多額の借金を抱えている結果、自己責任を基本とした小さな政府を推進し、福祉や公共サービスが削られ、社会のセーフティーネットから転落してしまう層が増えているのです。