三木谷社長が恐れる「アマゾンの猛攻」
三木谷の危機感の背後にはアマゾンの猛攻がある。マーケティング調査会社、ニールセンによると、2019年4月時点で日本におけるアマゾンの利用者は前年の4555万人から5004万人に10%増えた。これに対し4451万人だった楽天市場の利用者は8%増の4804万人。伸び率で下回り、アマゾンの背中が遠のいている。
2年ほど前に顕在化した「宅配クライシス」も、楽天のビジネスに影を落とす。ネットショッピングの急増で仕事が増えすぎたヤマト運輸や佐川急便は折からの人手不足もあり、「もうこれ以上、運べない」と一部で荷受けを拒否し、大幅な運賃値上げを要求した。三木谷は言う。
「あの時、店舗さんから、荷物を受け取ってもらえない、運賃が高すぎて商売ができない、と悲鳴が上がり、楽天は物流に投資することを決めた」
楽天は2019年、向こう10年で自社物流網の整備に2000億円を投じる計画を発表している。2020年には千葉県と神奈川県に巨大な物流センターがオープンする。
しかし、アマゾンの年間流通総額は約28兆円とされ、3.9兆円の楽天とは桁が違う。国内でもアマゾンは15カ所の物流センターを持ち、地域の運送会社を束ねて着々と自前の物流網を構築している。ヤマトや佐川が「配れない」と言っても、「それなら自分で配るからいい」と言える状況を作りつつある。
携帯電話事業参入に向けても先行投資がかさむ楽天
三木谷が「みんなで沈むことになる」と言うのは、自前の物流網を完成させたアマゾンに利用者を奪われ、楽天市場が衰退してしまうことを指す。送料の負担は中小の店舗にとって確かに負担だが、「楽天市場が寂れてしまったのでは、元も子もないだろう」というのが三木谷の言い分だ。
実際、13日に発表した楽天の2019年12月期、通期決算は8年ぶりの赤字だった。前述した物流網の整備に加え、4月に控えた携帯電話事業参入に向けた基地局の設置など先行投資がかさんでいるのだ。
成長分野に投資することによる赤字は、悪いことではない。アマゾンや電気自動車のテスラなど米国のベンチャーが黒字を計上するようになったのは、割と最近のことである。彼らはずっと、期間損益を赤字にし、投資を先行させたが、株式市場はこうした攻めの姿勢を好感し、両社の株価は上がり続けた。
物流に2000億円、携帯電話に6000億円。投資すべきビジョンを持つ楽天には成長余力があると見るべきだろう。